gin and tonic [kym×hkt] (ページ31)

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「ここだよ。行こうか」

いやだー！行きたくなーい！

"はい"と、声に出した言葉とは真逆の本音を俺の中のちびほくが叫んでいる。...昨日仕事終わりから今日この時間まで、信じられないほどあっという間だった。神様は俺の体感だけ早送りボタンを押したのだろうか

陰キャは、というか人見知りは。同様に場所見知りも拗らせていたりする場合がある。
新しい場所が苦手だ。どう立ち居振る舞いすればいいかわからない、緊張する

俺の警戒心の強さを配慮してくれたのか、迎えは家や最寄りでなく、勤務先近くの駅を指定してくれた。そこからタクシーで向かって、今目的地に到着したってわけだけど

タクシー内の空気はそれはもう悲惨なものだった。
夜職の欠片もないトークスキルの低さ。大我さんはというと、話を振ってくれるものの俺の返しが下手すぎてすぐ沈黙になってしまって

「緊張しないで。大丈夫だよ」

「あ、はぁ...」

「ここ俺の行きつけだから、ね？」

いや行きつけの方が緊張するじゃん、なんかやらかしたら今後彼が顔を出しにくくなるかもしれないし

実際に交わす言葉は多いものとは言えないが、俺の頭の中はフル回転している

店内は薄明かりで、それぞれ半個室に造られているようだった

席につき、既に用意された大小さまざまなカトラリーの数々

樹の言葉を反芻する

"コースだったら外側から使え"

...これを外側からいったらいいのか

「カトラリーがどうかした？」

「はわっ、」

「はわ！？」

意味をなさない発語を真似て、"あっはっは！"と何故か愉快そうな大我さん

俺はというと、頭の中で繰り広げていた予習の様子を覗かれたような気がして恥ずかしくてたまらない

「あっすみません、あの、こういうの不慣れで」

「全然いいよ。なんかフォーク睨みつけてぶつぶつ言ってたからなんだろうと思っただけ

...というか慣れられてちゃそれはそれで複雑だし」