9 ページ9
一度MANKAIカンパニーに顔を出してから数日後、再び劇場に足を運ぶことになった。そろそろ舞台で通したりセットも完成したから来て欲しい、との事で。
「おはようございます。照明の打ち合わせで来たんですけど」
ロビーにいた松川さんに声を掛ければ、人当たりのいい笑顔で劇場に通してくれた。既に通し稽古が始まっていたので、音を立てないように気を付けて一番後ろの席に座る。前回見た時よりも動きが洗練されていて、掛け合い等もかなり上達している。
「よし、じゃあ十分間休憩とろっか」
「カントク、A来てるネ〜」
「え？ あ、ごめんA気付かなかった！」
「ううん、お疲れ様。次の通しで私も照明やれば良い？」
「あ、もし出来そうなら音響の方でょっとお願いしたいんだけど」
台本を渡されて、仕方なく音響もすることにした。本番は照明だから音響は出来ないけれど、稽古だけなら問題はないだろう。音があった方が実際良いだろうし。
「ねぇ、A。これから公演まで、此方泊まれたりしない……？」
「え。いや、それは」
台本を改めて見直していると、申し訳なさを孕んだお姉ちゃんの声が上から降ってくる。公演までと言っても、あと一ヶ月くらいあるけど。一ヶ月も此処に、と考えるとあまり良くは思わない。
「どうしても至さんの帰宅時間とか考えると、夜しか通しで出来なくて……でも夜の稽古付き合ってたらAの帰る時間遅くなっちゃうし」
「でも、私の泊まるところないしさ」
「それはね、お姉ちゃんの部屋に作る！ スペースは有り余ってるし！」
「……うーん、お母さんがなんて言うか」
「実はもう許可は取ってある」
「嘘でしょお母さん……」
お姉ちゃんとまた暮らせるのは嬉しいけれど、そもそも一ヶ月の為だけに部屋に私の荷物移動させるのもそれはそれで面倒だし。そもそも、此処にはいたくない。
「こんな奴住まなくて良い。アンタの部屋に泊まるとか最悪、そこ俺の部屋だし」
「何言ってんの碓氷、気持ち悪。お姉ちゃん、此処本当に平気？ 碓氷追い出した方が良いと思う」
「うーん、今のところ平気だし、真澄くんは大切なウチの団員だから」
「俺もアンタのこと大切にしてる……」
お姉ちゃんに擦り寄ってきた碓氷を引き剥がして、少し考える。此処には心底居たくないけれど、このままだとお姉ちゃんが碓氷に食べられる。それだけは避けなければ。
「……分かった、お姉ちゃんを守る」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 255人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あだしの。
| 作成日時：2020年11月3日 22時
