36 ページ36
「あ、あの、Aちゃん、手伝うよ！」
「向坂くん？ ありがとう、でも大丈夫だよ」
向坂くんはやはり可愛らしいな、と思わず頬が緩まる。先程の喧騒が嘘のように心が凪いでいく。
「Aちゃんは……あ、年上の人だから敬語使わないとですよねごめんなさい！ 僕は本当に礼儀も何もなってない失礼な奴で、」
「ううん、敬語じゃなくても良いよ。さっきみたいに接してくれたら嬉しいな」
「本当？ 嬉しいな」
向坂くんが可愛らしくて思わず頭に手が伸びそうになるけれど、流石に初日で頭を撫でるのは如何なものかと手を引っこめる。向坂くんに夏組の人との交流を促して、皿洗いに勤しむ。
「……Aが春組にいた時と別人すぎて至さんびっくりしてる」
冷蔵庫からコーラを取り出しながらそう呟いた茅ヶ崎さんに、「年下は無条件で可愛いんです」と返せばなんとも失礼な回答が返ってくる。
「Aってそういう感情残ってたんだ」
「失礼ですね茅ヶ崎さん、燃やしますよ」
「薄々思ってたけど俺と真澄に対して当たり強いよね？」
「茅ヶ崎さんの当たり判定がデカすぎるだけですよ」
「俺繊細だから」
「確かにヨボヨボですもんね」
「そっちじゃないし本当に失礼だな」
年下でも可愛くない例外が目の前に、と言いながら自分の部屋に戻っていく茅ヶ崎さん。ゲームに呪われてしまえばいいと思ったけれど、それはそれで喜んでいる茅ヶ崎さんが目に浮かんだので、〇ボタンの反応が悪くなるようにと祈ることにした。
「……濃い一日」
春組の千秋楽が終わって少しは落ち着いた生活が戻るかと思ったけれど、全くそんなことはなかった。夏組の人達の個性が強すぎるし、一人は好きな俳優だし、本当にこれからどうしていけばいいのだろう。はぁ、と思わずため息が漏れた。
「あ、A。お皿洗いありがとう！」
「お姉ちゃん、これからお風呂？」
「そうそう。あ、Aも一緒に入る？」
「勉強してから入るから、今日はいいかな」
「そっか！ 程々にね、頑張って」
お姉ちゃんを見送った後、勉強道具を片手にいつものバルコニーへ向かう。今日はろくに勉強出来なかったから、反省しなければ。そう思いながら、皇天馬と書き殴られたノートを開いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 255人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あだしの。
| 作成日時：2020年11月3日 22時
