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「ねぇねぇ、さんかくすき〜?」
突然後ろから現れた男の人に驚きつつ、聞かれた質問の内容を咀嚼する。三角が好きかどうか?
「計算しやすい三角形なら……」
「そっかあ、オレもさんかくすき〜」
「そ、そうですか」
皆木さんとお昼にした会話を思い出す。夏組は個性的な人が多い、と。確かにその通りだ。ニコニコと目の前で笑う斑鳩さんにどんな対応をしていいのか分からず、「二等辺三角形とか計算楽ですよね」だなんて自分でも謎の発言をしてしまった。
「Aが好きなさんかく、たくさんあるよ〜」
「あ! すみーってばAちゃん連れてどこ行くの? オレも行くー!」
斑鳩さんに手を引かれ、三好さんに背を押され。着いた先は203号室。夏組、本格的にやばい奴らの集まりかもしれない。唯一の救いは向坂くんかな、と可愛らしい顔をしていた彼を思い浮かべながら、二人にされるがまま部屋の中へと足を踏み入れた。
「……え、すご」
「でしょー! さんかくいっぱい集めたんだよ〜」
「何度見てもすみーの部屋前衛的だよね!」
えへへと笑う斑鳩さんは可愛らしいし、この部屋の型にハマらない斬新さも凄い。何とコメントしていいのか分からず、三好さんを振り返っても「まじやべー!」と言いながら写真を撮るばかりで、もしかしたら私が可笑しいのかもしれないと錯覚に陥ってきた。
「そういや、Aちゃんは年いくつ?」
「高二です」
「うわ、三つも下! テンテンとまっすーと一緒か〜!」
皆木さんが胃を痛める原因が分かった。このテンションは確かに疲れる。皆木さんは高校時代ずっとこれの相手を? そう思い始めると、皆木さんに対する尊敬の念と同情が一気に沸き立った。
「私、そろそろお皿洗わないといけないので失礼しますね」
「あ、オレも戻る〜」
「オレもキッチンでさんかく探す〜」
203号室の滞在時間、わずか五分。再び斑鳩さんに手と引かれて三好さんに背中を押されてキッチンへと掛け戻った。
「Aちゃんが夏組の人ともう仲良くなってる……!」
「どう見たらそう見えるんですか……」
「サクサクじゃん、これから自主練? オレも見学してい?」
「さくさく……さんかくだ〜!」
一気に二人が佐久間先輩の元へと駆け寄り、ようやく私の自由が確立された。夏組は自分の土俵に持ち込むのが上手い。上手すぎて翻弄される。
「気をつけよう……」
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作者名:あだしの。 | 作成日時:2020年11月3日 22時