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「あ、う、え、違う違う違う違う、そっくりさんだよねそうだよね有り得ない有り得ない」
突然起きた非現実に戸惑ってしまったけれど、流石にこれは自分の妄想っぷりに呆れる。目の前の彼は本人じゃない、違う、絶対に違う。だって有り得ないから。違う。きっとそうだ絶対にそう。
「びっくりした本当にびっくりした、テレビ出れますよそっくりさん枠で。すみません失礼でしたねごめんなさい。じゃあお姉ちゃん私部屋戻るね夕飯になったら声掛けて欲しいなじゃあまたね失礼します」
未だに鳴り止まない心臓を抑えながら、缶を拾って冷蔵庫へ入れる。冷蔵庫に辿り着くまでに何ヶ所かに体をぶつけたのは、寮の耐久度チェックの為であって決して動揺していた訳では無い。だって本人じゃないから。
『あ、オレがコラボした奴』
先程のオレンジの言葉もきっと幻聴だろう。そろそろ冷静になろう私、流石に気持ち悪い。いくら好きな俳優にそっくりな人が現れたからといってここまで可笑しくなるのはやばい。
「わ、Aちゃん、フラフラだけど大丈夫？！」
「さ、佐久間先輩、いえ、大丈夫です、今から少し勉強して頭冷やすところでして」
「そ、そう？ 本当に大丈夫？」
「大丈夫です余裕ですちょっと素因数分解したい気分ですので失礼します」
佐久間先輩にそう言って階段を上ろうとするけれども、先程のオレンジがどうにもチラついてしまう。本格的にこのままだと駄目だと思い、雑念を振り払うかのように階段を踏みしめる、はずだった。
「ぅわっ」
まさか自分がここまで愚かだとは思わなかった。階段を踏み外して一階まで転げ落ちた私に、焦って駆け寄ってきて声を掛けてくれる佐久間先輩。
「Aちゃん大丈夫？！ 痛いところない？！」
「だ、だめかも……」
余程騒がしかったのか、部屋にいたシトロンさんまで出て来て私を覗き込み、「オー、血が出てるネ……」と眉を下げていた。
「とりあえず膝消毒しよう！」
「Aはここ座るネ」
未だに動かない私をお姫様抱っこして中庭のベンチに運ぶシトロンさん。佐久間先輩が救急箱を取ってきて、せっせと私の膝に消毒液をぶちまける。
「痛くない？ 少し我慢してね！」
「恥ずかしい、死にたい……」
「オオ、A！ 死んでしまうとはナサケナイ！」
恥ずかしいやら痛いやらで、涙が浮かんでくる。……本当に、死んではないけれど情けないの一言に尽きる。
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作者名：あだしの。
| 作成日時：2020年11月3日 22時
