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「おや？ Aさんって、この人のファンなんですか？」
スマホの通知でロック画面が光り、それが視界に入ったのか松川さんが私に尋ねてきた。ロック画面に映っているのは、私が長年応援している俳優だ。
「松川さん知ってるんですね。同い年ってこともあって、彼が出てる映画や番組は全部見てます」
「これはまた熱烈ですね……！ それにしても、Aさんも女子高生してますね〜！ ロック画面を好きな俳優にしてるだなんて！ Aさんは大人びた印象があったので、先程の碓氷くんの件と言いロック画面と言い、年相応のところもあって少し安心しました！」
「……ちょっとだけバカにしてませんか？」
「いえいえ！！ ただその、こうした仕事も快く手伝ってくれているのでその……支配人として、大人として、色々と複雑な気持ちになって……」
「まぁ、他の人に頼らなくても生きていけるようにとは思ってますけど、まだ生まれて16年しか経ってないですし」
軽く会話をしながら作業をしていれば、最後の一枚を終えたらしい。「宛名書き終わりました」と松川さんに言えば、「まだまだおかわりありますからね！」と笑顔で先程と同じ量を渡された。
「っと、そろそろ皆さん帰ってくる頃ですかね……？」
「ですね。あ、私、洗濯物取り込んで来ます」
「よろしくお願いします！」
松川さんにそう告げて外に出る。外は温かくて、洗濯物が良い具合に乾いていそうだなと思った。突然ポケットの中で震えだしたスマホを取り出せば、画面には母の名前があった。
「もしもし」
『今日いつ頃帰ってくるの？』
「えっと、夕方かな……」
『……もしかして、劇団残ることにしたの？』
「はい……」
歯切れの悪い私の様子で察したのか、お母さんの方から直球で尋ねてきた。お母さんのことも振り回してしまったな、と反省しながら次の言葉を探していれば、お母さんの方から笑い声が漏れた。
「え？ お母さん？」
『やっぱり、そうなるんじゃないかなとは思ってたわよ。そこまで驚きもしないわ。むしろ帰ってくるって聞いた方が驚いたもの。Aは、演劇好き？』
「……うん、好きみたい。演劇も、照明も、この劇団も」
『ふふふ、昔からAは彼処が好きだったからねぇ。Aはもう覚えてないかもしれないけれど、本当に昔から演劇が好きだったのよ。Aも、いづみも』
血は争えないわね。そう穏やかに呟いたお母さんには、なんと返していいのか分からなかった。
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作者名：あだしの。
| 作成日時：2020年11月3日 22時
