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「あれ、お母さん早いね？」
「おかえりA。今日は午後休だったのよ、いづみの所まで車で送ってあげようか？」
「……じゃあ、お願いしようかな」
家に帰ると珍しくお母さんがリビングでくつろいでいて、仮引越しの手伝いをしてくれることになった。ついでに、お姉ちゃんとの近況報告を要求されたので、簡単に今の状況を説明すれば、海よりも深いため息をついていた。
「あの歳で、借金……？」
「劇団の借金だけど、まぁ、総監督兼主宰だからお姉ちゃんの借金と言っても過言ではないよね」
「公演やり切れば良い、だなんて口で言うのは簡単だけど、それがどれだけ難しいことか分かってるのかしら」
「……一応お姉ちゃんも凄く頑張ってるけど、今のままだと微妙かな。良くなってきてはいるから、今後の稽古次第だとは思うけど」
「Aは照明なのよね？ 」
「そうだよ、時々音響もやったりするけど、本番は照明」
そう言えば、少しだけ間を開けてから「好きなら好きで良いのよ」と小さく笑った。何か誤解を招いているような気がするので、慌てて今回だけという約束だと告げても、「気が変わったらちゃんといづみに言いなさいね」とあしらわれて終わりだった。
「お母さんはね、Aがやりたいことをやってくれたら良いのよ。Aは素直じゃないから、いづみの強引さも少しは役に立ちそうね」
MANKAIカンパニーに着いて荷物を下ろしていた時に、お母さんがそう言って私の頭を撫でる。高校生だから子供扱いしないでくれ、と手から逃げた。
「あれ、お母さん？！」
「いづみ、久しぶりね。たまにはこっちにも顔出すのよ？」
「うん、近いうちにAと行くね！」
買い出し帰りのお姉ちゃんと偶然はち合わせて、少しだけ家族水入らずでお話をした。こんな風にゆっくり三人で話せるのも久しぶりだったから、ついつい頬が緩む。
「じゃあ、お母さん帰るわね。二人とも頑張ってね」
「うん！ じゃあまたね！」
「お母さんも気をつけて帰ってね」
お母さんが角を曲がるまで二人で車を見送ってから、寮に入る。
「Aさ、専属の照明になる気ない？」
「……今は、ないよ」
「そっか。気が変わったらいつでも言ってね」
照明は楽しい、けど、やっぱりこの劇団にはあの人が住み着いている感じがして、嫌だ。そんな感情もお見通しなのか、お姉ちゃんは困ったような顔で優しく微笑んでいた。
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作者名：あだしの。
| 作成日時：2020年11月3日 22時
