裏方担当の監督の妹が心を開くまで【A3!】 (ページ2)

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『A、お願いがあるんだけどさ……』

今日はバイトが無いからと直帰しようとしていたが、お姉ちゃんからの電話で足を止める。お姉ちゃんが出ていって一ヶ月が経とうとしていた。それまで一切連絡はしていなかったのに、一体どうしたのだろうか。

『音響と照明でちょっと相談したいことがあって！もし今日来れそうだったら此方来てくれない？』

「……他に人いないの？」

『一応当たってみたけど全滅で……』

お姉ちゃんが今いる劇場、確かMANKAIカンパニー。地図アプリを開いてみれば、そう遠くないことが分かった。

「一時間くらいかかるけど」

『全然大丈夫！ありがとう、A！』

「……うん、じゃあまた後で」

正直な話、父がいた所だなんてもう行きたくはないけれど、お姉ちゃんの頼みなら仕方が無い。父の手掛かりを探しに家を出たというのは少々複雑だけれど、お姉ちゃんは大切な家族だから自分が助けられることは何でもしてあげたい。

「一旦家戻って過去の奴漁らなきゃな……」

家に帰り、自分の部屋から中学時代の台本を探し出す。中学時代に裏方担当で演劇部に所属していたから、場数はそれなりにこなしている。恐らくお姉ちゃんはそれを見越して私に頼んだのだろう。

「……こんなもんで良いかな」

台本を少し振り返っていたせいで着替える時間がなくなってしまった。仕方が無い、と制服のまま台本が入ったトートバッグを肩にかけて家を後にした。