第九十四訓「大切なものは見えにくい」 ページ44
伊東が本当に欲しかったもの。
それは、ただ誰かに隣にいてほしくて、誰かに見てほしかった。
ただ、絆がほしかった。
正面から受けとめてくれる
正面からぶつかってくる
敵陣のヘリを墜落させ、土方は電車へ飛び移った。伊東の伸ばした手は、しっかりと土方が握っていた。
「……土方君、君に言いたい事が一つあったんだ」
「奇遇だな、俺もだ」
「「俺/僕はお前/君が嫌いだ、いずれ殺してやる。だから…こんな所で死ぬな」」
やっとの思いで土方、伊東を引き上げ脱線していない列車へ這い上がると、鬼兵隊が前からやって来た。
この状況でこの敵の数、奴は本当に真選組を消すらしいな。
「A!後ろ!」
『!?』
目の前の敵を斬るのに必死だった為、後ろの奴らには気付かなかった。
何たる失態。
斬られる覚悟をし思わず目を瞑ると、衝撃は無く、頭の上から溜め息がした。
「…ったく、ヤンキー共しばき上げた勢いは何処いったんでィ」
『お前…』
「今回お前らにはウチの上司ら揃って世話になってるんでね。ガキ一人の命安いもんだが、貸しは貸しだ」
『ガキって言うな』
「んな所で座ってねぇでさっさと立ちな。たかが元ヤンにでも、雑魚の相手ぐらい出来んだろ」
沖田の一々癇に障る言い方にキレそうになりつつも、木刀を握り直した。
こういう真剣での場は初めてじゃないだろ。
落ち着いて相手を見ろ。
「死ぬか生きるかしかねェ戦場で深く考えんな。テメーにはテメーの流儀があんだろ」
そうか、何を戸惑う。
こいつらは一般人でもない以前に、私の知る現実世界の人間では無いんだ。
いつもの手加減は要らない。
『…全員ぶっ殺す』
「ありゃ、ヤンキーのとんでもねぇスイッチ押しちまったか」
「オイ、総悟!余所見すんな!後っ……」
沖田に襲い掛かった敵を木刀で容赦なくぶっ叩き、その勢いで外へと放り出す。
さっきとはまるで違う私の動きを見た沖田の顔は、何処か面白そうに笑う。
「……お前、人変わってんぞ」
『お前が言ったんだろ、私の流儀でいってもいいと』
「おっかねぇや」
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作者名:憐 | 作成日時:2014年3月12日 2時