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四十四、現場、あるいは吊るされる上司と名探偵 ページ45

「やあ、二人とも仕事中?
おつかれさま」

「あんた、ホントに何してんですか? 」

目の前で逆さにぶら下がる水浸しの上司を、詩房は半眼で見つめた。

____

この、事情を説明するのには数十分の時を遡る。
泣き止んだ敦と二人で、乱歩のお供と云う仕事を貰った詩房は、疲れていた。
何せ、この自信満々な自称世界一の名探偵、電車の乗り方すら分かっていない。切符の買い方から、路線図の見方、改札の通り方、ホームの場所まで、何一つとして、分かっていなかった。
おまけに自分本位で、持ってきたお菓子がなくなると、商店街の和菓子屋ではみたらし団子を、駅のコンビニでは棒付き飴を購入する羽目になった。
そうして、目ぼしいお菓子を見つける度に、ふらふらと消えそうになる彼を軌道修正し、お菓子を補充しながら数十分。
やっとたどり着いた事件現場の河原で待っていたのは、事件を解決してくれと云う依頼・・・・・・では無く、渋面で折角連れてきた乱歩に、帰れと催促する刑事。
被害者の女性は、胸部に三発の銃弾を受け、川を流されていた。その刑事の部下だった。
状況を把握したところで、川に仕掛けておいた網に人がかかっていると云うことで、現場が騒然となった。
第二の被害者、連続殺人などの言葉が、脳裏を過ぎる中、網は上がる。
専用の機械で宙に吊るされたのは、砂色の外套の生きた成人男性。迷惑上司、太宰治その人だった。
冒頭の台詞を冷たい視線と共に投げつけた詩房の隣で、敦が問う。

「ま・・・・・・また入水ですか? 」

「独りでジサツなんて古いよ敦君。前回の美人さんの件で実感したよ。
矢っ張り死ぬなら心中に限る! 独りこの世を去る淋しさの、何と虚しいことだろう! 」

詩房に続いて、敦までもが半眼になった。

「というわけで、心中してくれる美女募集中。
あ、詩房ちゃん一緒に逝く? 今なら、君のお好みの方法で」

「逝きませんっ」

「え? じゃあ今日のこれは」

「これは単に、川を流れていただけ」

「なるほど? 」

もはや、怒りすら湧かず、只、自分には理解できないものが沢山ある、と世界の広さを痛感するだけになっていた。

四十五、名探偵の能力、あるいは騒ぐ上司と壊れる雰囲気→←四十三、戻る場所、あるいは泣いた新人と新たな仕事



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犬原(プロフ) - 織川さん» ご感想ありがとうございます。作品の更新を楽しみにしてくれている方が一人でもいることが分かり、とても嬉しいです。至らない部分もあるかと思いますが、よろしくお願いします。 (2018年4月7日 7時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
織川(プロフ) - コメント失礼します! 犬原さんの文がとても素敵でいつも更新を楽しみにしています。占いツクール作者の中では犬原さんの小説が一番好きです。これからも応援しています! (2018年4月6日 20時) (レス) id: f371f8209b (このIDを非表示/違反報告)
犬原(プロフ) - 石橋さん» コメントを下さってありがとうございます。自分の文章を好きだと言ってくださる方がいて、作者冥利に尽きます。まだまだ未熟ですがこれからも精進していきたい所存ですので、よろしくお願いします。 (2018年3月23日 14時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
石橋(プロフ) - コメント失礼いたします。密かにですが、犬原さんの作品が好きで追いかけさせてもらっている者です。いつも美麗な文章と原作の雰囲気を自分の物にするストーリー展開に惚れ惚れしています。ご自身のペースで執筆作業を頑張ってください!応援しております。 (2018年3月23日 1時) (レス) id: 1d9b4e262e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:犬原 | 作成日時:2018年3月21日 14時

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