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三十四、死体の瞳、あるいは呑み込まれることを許せない彼女 ページ35

死人のような瞳に、体が凍りついた。声帯までもが、ぴしりと固まり痛みに、漏れていた呻き声さえも、喉の奥へと押し込められる。
あの黒い目に飲み込まれてしまいそうで、脳内を席巻していた痛みを、恐怖が強引に押しのけた。血に染まった指先が痙攣した。
あの男は死を纏っている。そう、思った。あの瞳に、銃口よりも恐ろしいものを感じた。
芥川と、そう名乗った男が再び咳き込む。

「そこな小娘と同じく、卑しきポートマフィアの狗____」

「芥川先輩、ご自愛を____此処は私ひとりでも」

彼に声をかけた樋口が次の瞬間には、頬を打たれ、睥睨される。何処か遠くを見た眼球が彼女を罵った。

「人虎は生け捕りとの命の筈。片端から撃ち殺してどうする。役立たずめ」

「____すみません」

「人虎・・・・・・?
生け捕り・・・・・・・・・・・・? あんたたち一体」

敦が呆然として発した疑問に、芥川が答える。

「元より僕らの目的は、貴様一人なのだ。人虎。
そこに転がるお仲間は____いわば貴様の巻き添え」

「僕のせいで、皆が____? 」

敦が震えた声で、何処か遠くを見る。
駄目だ____
このままでは、敦はあの黒い目に呑み込まれ、押し潰される。自己評価が必要以上に低くて、自分を大切に思っていない優しい少年が、何より、短い時間でも、『普通にしていない自分』と笑いあってくれた人間が、そうなるのは____
それは駄目だっ!!

「然り、それが貴様の業だ。人虎。貴様は、生きているだけで周囲の人間を損なうのだ」

敦の目の前に、孤児院の幻影がちらつく。

「自分でも、薄々気がついているのだろう? 」

芥川が問うた。
その時、

「あつ、しっ、そんなことない! 耳貸しちゃ、だめだ」

「詩房、ちゃん? 」

途切れ途切れの声と、自身の腕を掴んだ弱々しい手に敦は現実に、引き戻される。
怖いのを押し退けて、精一杯の声で叫んだ。

「あん、たは、私と笑ってくれ、たっ! 楽し、かった」

「五月蝿いぞ、小娘。僕は人虎と話している。
黙らぬと云うなら、殺す」

芥川の目がぎょろりと、詩房を睥睨した。だが、彼女はそれを黙殺する。

「だか、らッ!! 」

絞り出すような彼女の声を、芥川がその言葉で握り潰す。

「『羅生門』」

刹那、敦のすぐ隣、詩房がいた場所を黒い刃が抉っていった。

三十五、『砂の女』、あるいは『死』→←三十三、反撃、あるいは季節外れの雪と三度変わる空気



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犬原(プロフ) - 織川さん» ご感想ありがとうございます。作品の更新を楽しみにしてくれている方が一人でもいることが分かり、とても嬉しいです。至らない部分もあるかと思いますが、よろしくお願いします。 (2018年4月7日 7時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
織川(プロフ) - コメント失礼します! 犬原さんの文がとても素敵でいつも更新を楽しみにしています。占いツクール作者の中では犬原さんの小説が一番好きです。これからも応援しています! (2018年4月6日 20時) (レス) id: f371f8209b (このIDを非表示/違反報告)
犬原(プロフ) - 石橋さん» コメントを下さってありがとうございます。自分の文章を好きだと言ってくださる方がいて、作者冥利に尽きます。まだまだ未熟ですがこれからも精進していきたい所存ですので、よろしくお願いします。 (2018年3月23日 14時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
石橋(プロフ) - コメント失礼いたします。密かにですが、犬原さんの作品が好きで追いかけさせてもらっている者です。いつも美麗な文章と原作の雰囲気を自分の物にするストーリー展開に惚れ惚れしています。ご自身のペースで執筆作業を頑張ってください!応援しております。 (2018年3月23日 1時) (レス) id: 1d9b4e262e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:犬原 | 作成日時:2018年3月21日 14時

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