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三十三、反撃、あるいは季節外れの雪と三度変わる空気 ページ34

妹の名を何度も呼び、目を開けてくれと懇願していた谷崎のまとう空気が一変する。

「チンピラ如きが____ナオミを傷つけたね?」

猛獣が唸るようなざらついた声が、憎悪に満ちた言葉を形成する。ナオミを抱き上げ、ゆらりと立ち上がる彼の、余りの気迫に、有利な立場にあるはずの樋口がびくりと後退った。

「『細雪』」

産み出さた声。命を受けた異能が発動する。雪が、降らないはずの雪が降り出した。

「敦くん、詩房ちゃんを連れて、奥に避難するンだ」

ありえない現象を引き起こした張本人は落ち着いた声で、敦に指示を出す。だが、次の瞬間には、声音が一気に豹変し、

「こいつは____ボクが、殺す」

獲物を咬み殺すと決めた獣の顔。牙を剥くように云った谷崎に、危険だと判断した樋口が発砲する。だが、弾丸に撃ち抜かれたはずの彼は、空気に溶けるように瓦解した。
はっと我に帰った敦が、傷に障らぬよう詩房を抱えて退避する。
サングラスの下の目を剥く樋口に、何処からともなく声が雪と一緒にに降り注いだ。

「ボクの『細雪』は____雪の降る空間そのものをスクリーンに変える。ボクの姿の上に背後の風景を『上書き』した。もうお前にボクは見えない」

「しかし・・・・・・姿は見えずとも弾は中る筈っ! 」

それならば、と全方位に弾丸をばら撒く樋口。

「大外れ」

だが彼女の凶行はすぐに止められた。背後からぬっと突き出した両手によって。

「死んで終え____! 」

地の底から響き渡るような、獣さながらの唸り声。
いつの間にか彼女の後ろへと回った谷崎が、樋口の白い首を万力のような力で締め上げる。気道を攻められ、呻きを上げる樋口。
勝負は決した。

そう、思った。

ごほ、ごほ____

神経を引っ掻いたその音。何の音か、横向きに寝かされた詩房には判別できなかった。だが、その控えめな音が、三度(みたび)、この場の空気を塗り替えた。
谷崎の体が、ゆっくりと傾ぐ。
その後から現れたのは、黒い、黒い男だった。
その男が身を包んだ、闇で仕立てたような長外套。それの裾が変形し、倒れ伏した谷崎の背に喰らいついている。
死人のような射干玉の瞳が、敦と詩房に視線を投げかけていた。

「死を惧れよ、殺しを惧れよ」

口元に華奢な手を当てたまま、男は噛み締めるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。谷崎から、ズルズルと外套が引き抜かれた。敦と詩房が目を剥く。

「死を望む者、等しく死に、望まるるが故に____」

ゴホ、と彼はもう一つ咳をし、そして、

「お初にお目にかかる。
____僕は芥川」

三十四、死体の瞳、あるいは呑み込まれることを許せない彼女→←三十二、銃口、あるいは轟音と地を這う彼女



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犬原(プロフ) - 織川さん» ご感想ありがとうございます。作品の更新を楽しみにしてくれている方が一人でもいることが分かり、とても嬉しいです。至らない部分もあるかと思いますが、よろしくお願いします。 (2018年4月7日 7時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
織川(プロフ) - コメント失礼します! 犬原さんの文がとても素敵でいつも更新を楽しみにしています。占いツクール作者の中では犬原さんの小説が一番好きです。これからも応援しています! (2018年4月6日 20時) (レス) id: f371f8209b (このIDを非表示/違反報告)
犬原(プロフ) - 石橋さん» コメントを下さってありがとうございます。自分の文章を好きだと言ってくださる方がいて、作者冥利に尽きます。まだまだ未熟ですがこれからも精進していきたい所存ですので、よろしくお願いします。 (2018年3月23日 14時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
石橋(プロフ) - コメント失礼いたします。密かにですが、犬原さんの作品が好きで追いかけさせてもらっている者です。いつも美麗な文章と原作の雰囲気を自分の物にするストーリー展開に惚れ惚れしています。ご自身のペースで執筆作業を頑張ってください!応援しております。 (2018年3月23日 1時) (レス) id: 1d9b4e262e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:犬原 | 作成日時:2018年3月21日 14時

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