検索窓
今日:9 hit、昨日:8 hit、合計:35,055 hit

三、合流、あるいは新たな出会いと迷コンビ ページ4

土手の下へと疾走する国木田を追いかける詩房の目に映ったのは、おおよそ日本人とは思えない白髪の少年と砂色の外套を纏う長身の青年だった。
それを見て、彼女は足を動かし乍ら頭を悩ませる。
国木田は先程確かに、此処は横浜だと云ったが、詩房にはにわかには信じ難い。
確かに日本であることは間違いないようだが、所々に自分の知っている現代日本だとは思えないものがある。
技術や設備は自分のいた場所と大差ないのだが、人々の空気と云うか、街の雰囲気が、何処か現代日本をレトロにしたような感じなのだ。
それに、此処が横浜だと教えてくれた国木田独歩。彼はそう名乗った。だが、国木田独歩は明治の文豪で、もう死んだはずだ。
嘘をついているようには見えない。だが、偶然同姓同名であるだけ、で片付けてしまうのは早計な気がする。

「小娘、早く来んか!!」

次々と浮かび上がる疑問と思考を、国木田の声が中断させる。それに返事をして、土手へと降りる階段を駆け下りる。
この人を待たせると少々厄介な事になるのは、この短い時間でも十分に理解できた。

「こんな処に居ったか唐変木!」

国木田が向う岸に呼びかけた、と云うよりは怒鳴った。
彼に教えられた探し人の特徴から、砂色の外套がその人物だと判断する。
となると、その傍らの白髪の少年は一体何なんだろうか。
そんな事を考えているうちに、彼らの会話は面白いようにぽんぽん進む、いや、進んでいるというよりは、同じところで足踏みしているのに近いような気がする。

「お嬢さーん!
私と心中しなーい?」

「はあ?」

「あれ、連れない」

「誰彼構わず心中を申し込む奴があるか!このジサツ嗜癖」

国木田の隣で苦笑を禁じ得ないでいると、不意打ちでこちらに声が飛んできた。
予想外の誘いに呆ける詩房の代わりに国木田が向う岸へと怒鳴り返す。
其の言葉を聞いてこの人はいつもこんな感じの残念な人なのか、と理解する。

「そうだ君、いいことを思いついた彼は私の同僚なのだ。彼に奢ってもらおう」

そうしている間にも会話は淀みなく続いていく。この二人何だかんだで相性が途轍もなくいいのではなかろうか、ある意味で、なんてことを考えている。
だが、その呑気な傍観の姿勢は白髪の少年が名乗った事によりあっさりと付き崩された。まあ、元々、崩れてはならないものでは無かったのだが。

「中島敦」

と、少年はそう云った。
彼女が知っている彼もまた、日本を代表する名文の産みの親であった。

四、茶屋にて、あるいは悍ましいほどの茶漬けと無神論者の返答→←二、捜索、あるいは悪ふざけからの掌返し



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (36 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
29人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

犬原(プロフ) - 織川さん» ご感想ありがとうございます。作品の更新を楽しみにしてくれている方が一人でもいることが分かり、とても嬉しいです。至らない部分もあるかと思いますが、よろしくお願いします。 (2018年4月7日 7時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
織川(プロフ) - コメント失礼します! 犬原さんの文がとても素敵でいつも更新を楽しみにしています。占いツクール作者の中では犬原さんの小説が一番好きです。これからも応援しています! (2018年4月6日 20時) (レス) id: f371f8209b (このIDを非表示/違反報告)
犬原(プロフ) - 石橋さん» コメントを下さってありがとうございます。自分の文章を好きだと言ってくださる方がいて、作者冥利に尽きます。まだまだ未熟ですがこれからも精進していきたい所存ですので、よろしくお願いします。 (2018年3月23日 14時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
石橋(プロフ) - コメント失礼いたします。密かにですが、犬原さんの作品が好きで追いかけさせてもらっている者です。いつも美麗な文章と原作の雰囲気を自分の物にするストーリー展開に惚れ惚れしています。ご自身のペースで執筆作業を頑張ってください!応援しております。 (2018年3月23日 1時) (レス) id: 1d9b4e262e (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:犬原 | 作成日時:2018年3月21日 14時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。