二十六、入社、あるいは回された手と潰されていた選択肢 ページ27
押し黙る二人に太宰が告げた。
「合格だってさ」
「つ、つまり･･････？
僕たちに斡旋する仕事って云うのは、此処の･･････？」
「武装探偵社へようこそ」
太宰が、微笑んで手を差し伸べた。顔を引き攣らせる二人に、鈴を転がすような声がかかる。
「うふ、よろしくお願いしますわ」
「い、痛い。そこ痛いってばナオミごめん、ごめんって！」
谷崎潤一郎＿＿＿＿能力名『細雪』
その妹＿＿＿＿ナオミ
ナオミが偽物の腕を、振る。仕掛けは判然としないが、おそらくあれで、敦を転ばせたのだろう。気が抜けると同時に、それまで感じなかった腰の痛みが襲いかかる。デスクに激突した際のアレである。これは痣になる。だが、ここまで申し訳なさが欠片も見えないと、ちょっと一言云ってやろうと云う気も失せた。げんなりした。
偽物の腕を見て、爆弾魔騒ぎが狂言であったことを察した敦が尻餅をつく。
「ぼ、僕たちを試すためだけに･･････こんな大掛かりな仕掛けを？」
「この位で驚いてちゃ身が持たないよ？」
「いやいや！こんな無茶で物騒な職場、僕無理ですよ！」
拒否した敦に、流されそうななっていた詩房が我に返る。
「自分も無理です！ 今朝、理由を伝えてお断りしましたよね?! 」
「えー、わかったとは云ったけど、社に入らないことを認めたとは云ったは覚えないよ」
「私は、力を使えない！」
「使えないなら、使えるようになるまでだよ。大丈夫、サポートはするから」
太宰がにへらと笑い乍ら、しゃあしゃあと口にする。
「まあ、でも、君たちが無理と云うなら強制はできないね」
この男にも、一応意見を聞く気があるのだ、と敦と詩房が胸を撫で下ろす。が、すぐにその安堵はぶち壊されることとなった。他ならぬ、太宰の言葉によって。
「となると、君たちが住んでる社員寮引き払わないと。あと寮の食費と電話の払いもあるけど･･････大丈夫？」
「なっ、当面の生活は心配しなくていいって云ってたじゃないですかっ?!」
「払わなくていいとは誰も云っていないよ。却説、履歴書も戸籍も真っ白な君が就職できるのは何年後だろうね？」
往生際悪く食い下がった詩房が、敦共々凍りついた。生き汚いのが取り柄でも、これは流石に諦める他なかった。
敦は滂沱と涙を流し、詩房はデスクに轟沈した。
太宰相手に抵抗したことが、運の尽きであった。
二十七、自己紹介、あるいは迷惑噴霧器と艶かしい兄妹→←二十五、入社試験、あるいは種明かしと合否の結果
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 29人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
犬原(プロフ) - 織川さん» ご感想ありがとうございます。作品の更新を楽しみにしてくれている方が一人でもいることが分かり、とても嬉しいです。至らない部分もあるかと思いますが、よろしくお願いします。 (2018年4月7日 7時) (
レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
織川(プロフ) - コメント失礼します！ 犬原さんの文がとても素敵でいつも更新を楽しみにしています。占いツクール作者の中では犬原さんの小説が一番好きです。これからも応援しています！ (2018年4月6日 20時) (レス) id: f371f8209b (このIDを非表示/違反報告)
犬原(プロフ) - 石橋さん» コメントを下さってありがとうございます。自分の文章を好きだと言ってくださる方がいて、作者冥利に尽きます。まだまだ未熟ですがこれからも精進していきたい所存ですので、よろしくお願いします。 (2018年3月23日 14時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
石橋(プロフ) - コメント失礼いたします。密かにですが、犬原さんの作品が好きで追いかけさせてもらっている者です。いつも美麗な文章と原作の雰囲気を自分の物にするストーリー展開に惚れ惚れしています。ご自身のペースで執筆作業を頑張ってください！応援しております。 (2018年3月23日 1時) (レス) id: 1d9b4e262e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：犬原 | 作成日時：2018年3月21日 14時
