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二十二、非常事態、あるいは珍妙な罵倒と押し付けられた鉢 ページ23

僅かに首を傾げる詩房に気付かず、敦は目的地を問う。二人の仕事の斡旋をしてくれると云う太宰。

「本当ですか!」

「伝手の心当たりあるから、まずは探偵社に行こう。任せ給えよ、我が名は太宰。社の信頼と民草の崇敬を一心に浴す男」

大仰な身振りでそう語る太宰に、一瞬顔を輝かせた敦と詩房は、すぐに彼にじとっとした視線を向ける。その時、

「ここに居ったかァ!この包帯無駄遣い装置!」

情、容赦の一切感じられない珍妙な罵倒が太宰を襲う。傷つく太宰。詩房は少し、ほんの少しだけざまあみろと思った。不可抗力だと思う。
固まった三人に更に声が飛ぶ。

「この非常事態に何をとろとろ歩いているのだ!疾く来い!」

非常事態、そう口にした国木田も、包帯無駄遣い装置こと太宰の手にかかれば、気の抜けた炭酸のようなペースに流されてしまう。その時やっと、敦が締め上げる眼鏡と締め上げられる包帯に割り込んだ。

「あの非常事態って?」

「そうだった! 探偵社に来い! 人手がいる!」

我に返った国木田が、再び顔を引き締め、何があったのかと問うた太宰に言葉を返す。

「爆弾魔が、人質を連れて探偵社に立て篭もった!」

三人が目を剥いた。

____

そして、数十分後、

「や、やややや、やめなさーい!親御さんが泣いてるよ!」

「え、えーと、死ぬのはやめた方がいいんじゃないかな!
って云うのはその、なんて云うか死ぬのは想像出来ないし、だから、個人的にはあんまり宜しくないというか、あー、そのうまく説明出来ない!」

敦と詩房は、犯罪者に訴えかける非常に古典的な文句と、死んじゃ駄目よ的方向性の彼女個人の見解で、年若い爆弾魔を説得しようと試みていた。と云うか、犯人を引きつけると云う役目を押し付けられた。
じたばたと言葉を探し乍ら、先程のことを反芻する。さも当然のように連れてこられた武装探偵社の事務所。そこで、起爆スイッチを握り締めがたがたと震える茶髪の青年。縛られ怯えるセーラー服の少女。矢鱈めったらかっこつけて行われたじゃんけん大会(役目の押し付け合い)。動きを制限された国木田。そして、顔が割れている自分では役に立たないと語り、にやぁっと悪魔如き笑みを此方に向けた太宰。百鬼夜行、悪鬼羅刹、魑魅魍魎の類も裸足で逃げ出しかねんそれに、走った背筋の悪寒。
矢張り、NOと言える日本人になっておけばよかった。詩房は、今、その短い人生の中で最も強く、そう思っている。できるなら、この震える脚を以てして、今すぐに現実からランナウェイしてしまいたい。

二十三、説得、あるいは鬼気迫る彼と聞こえてはならない音→←二十一、救出、あるいは痛む爪先と小さな違和感



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犬原(プロフ) - 織川さん» ご感想ありがとうございます。作品の更新を楽しみにしてくれている方が一人でもいることが分かり、とても嬉しいです。至らない部分もあるかと思いますが、よろしくお願いします。 (2018年4月7日 7時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
織川(プロフ) - コメント失礼します! 犬原さんの文がとても素敵でいつも更新を楽しみにしています。占いツクール作者の中では犬原さんの小説が一番好きです。これからも応援しています! (2018年4月6日 20時) (レス) id: f371f8209b (このIDを非表示/違反報告)
犬原(プロフ) - 石橋さん» コメントを下さってありがとうございます。自分の文章を好きだと言ってくださる方がいて、作者冥利に尽きます。まだまだ未熟ですがこれからも精進していきたい所存ですので、よろしくお願いします。 (2018年3月23日 14時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
石橋(プロフ) - コメント失礼いたします。密かにですが、犬原さんの作品が好きで追いかけさせてもらっている者です。いつも美麗な文章と原作の雰囲気を自分の物にするストーリー展開に惚れ惚れしています。ご自身のペースで執筆作業を頑張ってください!応援しております。 (2018年3月23日 1時) (レス) id: 1d9b4e262e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:犬原 | 作成日時:2018年3月21日 14時

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