検索窓
今日:6 hit、昨日:8 hit、合計:35,052 hit

二十一、救出、あるいは痛む爪先と小さな違和感 ページ22

「やあ、よく来たね。早速だが助けて」

「え、何ですかこれ?」

「あんた、ほんと何してんですか?」

着替えて、社員寮の前に佇む詩房と敦の前方には、ドラム缶にすっぽりとハマった成人男性がいた。先程抱いたこの男、太宰への罪悪感は彼女の中から綺麗さっぱり消え失せている。
制服と、何故か数着用意されていた下着を身につけた時、スカートの衣囊の中に入れられていたガラパゴス携帯により、深刻な声音で呼び付けられた詩房は、未だこの状況を呑み込めていなかった。いや、飲み込みたくなかったと云うべきであろうか。

「何だと思うね?」

「朝の幻覚? 」

「悪夢の続き? 」

質問に質問で返す太宰に、サスペンダーにネクタイを締めた敦と共に眉を寄せる。二人の言葉を即座に否定した太宰が、ドラム缶にハマったまま聞いてもいない説明を始めた。曰く、こういった死に方が有るのだそうだが、試してみると苦しいばかりで一向に死ねないらしい。詩房の脳裏に、この人やっぱり只の阿呆では、とほぼ断定に近い言葉が過ぎる。

「でも、ジサツなのでしょう? そのままいけば」

「苦しいのは嫌だ。当然だろう」

敦の最もな意見に、太宰の甘ったれた言葉が割り込んだ。疑問符を浮かべつつも、なるほどと呟いた敦を横目に、詩房がドラム缶に回し蹴りを放った。予想以上に低い位置に中ったそれは、缶を倒すことなく虚しく揺らすのみで、おまけに革靴越しとは云え金属と激突した爪先は結構痛い。無様に唸る彼女を笑った太宰の入ったドラム缶を、敦が倒してやっとこさ太宰は自由の身となった。
太宰を解放した二人は、ついておいで、と目的地も明かさずにそれだけ云った彼の背中を追いかける。しばし、敦と顔を見合わせたがお互い行く宛がないので取り敢えずは従うことにした。

「同僚のかたに救援を求めなかったのですか?」

二人で太宰に追いついた時、敦が問う。

「求めたよ。でも私が死にそうなのだと助けを請うた時、何と答えたと思う?」

「死ねばいいじゃん」

「御名答」

双方同時に同じ言葉を発した。敦と詩房、二人の心が一つになった瞬間であった。今度は、詩房が口を開く。

「じゃあ、どうして二人も呼んだんです? どちらか 一人でも事足りたと思うんですが」

「よく云うだろう。一人よりも二人がいいって」

にっこりと口角を上げ、何やら答えになっているようななっていないような、要領の得ない言葉が返ってくる。首を傾げるも、その違和感というには些か大袈裟な感覚は、すぐにかわされる声に埋もれていった。

二十二、非常事態、あるいは珍妙な罵倒と押し付けられた鉢→←二十、結論、あるいは一人狂った彼女と世界



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (36 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
29人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

犬原(プロフ) - 織川さん» ご感想ありがとうございます。作品の更新を楽しみにしてくれている方が一人でもいることが分かり、とても嬉しいです。至らない部分もあるかと思いますが、よろしくお願いします。 (2018年4月7日 7時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
織川(プロフ) - コメント失礼します! 犬原さんの文がとても素敵でいつも更新を楽しみにしています。占いツクール作者の中では犬原さんの小説が一番好きです。これからも応援しています! (2018年4月6日 20時) (レス) id: f371f8209b (このIDを非表示/違反報告)
犬原(プロフ) - 石橋さん» コメントを下さってありがとうございます。自分の文章を好きだと言ってくださる方がいて、作者冥利に尽きます。まだまだ未熟ですがこれからも精進していきたい所存ですので、よろしくお願いします。 (2018年3月23日 14時) (レス) id: 467c88039a (このIDを非表示/違反報告)
石橋(プロフ) - コメント失礼いたします。密かにですが、犬原さんの作品が好きで追いかけさせてもらっている者です。いつも美麗な文章と原作の雰囲気を自分の物にするストーリー展開に惚れ惚れしています。ご自身のペースで執筆作業を頑張ってください!応援しております。 (2018年3月23日 1時) (レス) id: 1d9b4e262e (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:犬原 | 作成日時:2018年3月21日 14時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。