２：仰望 ページ6
「Aさん！こんちゃっス！」
下校中、私に声をかけたのは圭介の腹心、壱番隊副隊長であり後輩の松野千冬くんだ。
2年間先生並みに聞いてきた声に振り返れば、包帯とガーゼだらけの姿に私は驚きの声を上げた。
「千冬く…！ど、ど、どうしたのそれ！！」
「いやあ、ちょっと色々あって…」
「千冬、この人は？」
千冬くんの隣に立つ、金髪のリーゼントの男の子が千冬くんにそう問いかける。
見たところ制服も違うし、千冬くんの他校の友達だろうか。
ボンタンに開襟シャツ、学ランっぽいからマイキーとかその辺かな？
「この人はAAさん、場地さんの嫁だ」
「場地くんの！？」
「あー、その事なんだけどね…」
驚いた顔をするリーゼントくんに申し訳ないと思いながらも、頬をかいて何回も口にしてきた言葉を放つ。
最初は言うたびに泣いていたが、今ではもう涙は出ないし冗談めかして言えるほどにまでなった。
「実は最近別れたんだ」
「えっ」
「だから私はもう圭介と何の関係もないよ。千冬くんお大事にね」
「待ってください！！」
そう言って背中を向けた私を千冬くんが引き止めた。
圭介や私と一緒に居たときは犬のようだったのに、その風貌さえ感じさせないほど真剣な表情だった。
「少し、時間いいですか…？話したいことがあります」
「…そっちの子は？」
「こっちは弐番隊の花垣武道っす」
「ああ、あのタケミっちくんか」
この小さな人がマイキー達が言っていたタケミっちか、と納得する。
武蔵祭りでドラケンが刺された時に助けたり、マイキーのお気に入りであると聞いている。
今までツルんでた人達とは雰囲気が違ったので、何だか不思議だったが真っ直ぐな目をしているなと思った。
「Aさん、お願いします」
「千冬くん！？」
ガバッと音がしそうなほど勢いよく千冬くんが頭を下げた。
一見して不良に見える容姿の彼が、どう見てもカタギの私に頭を下げる様を見て、通行人がすれ違い様に何度も私達を見る。
彼がこれほどにまで必死に頼み込むのだ、どうせ圭介のことだろうとわかっていて話題を変えたのに。
別れたから関係ないんだけどな…、と思いつつ普段私に良くしてくれる彼を放っておけるはずもなく、
「…わかった。ウチおいでよ、私もあんまり他の東卍の誰かに聞かれたくないし」
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作者名：くゎじゅ | 作成日時：2021年9月9日 1時
