夜を呑む (ページ34)

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８：塗擦ページ34

思い出は塗り替えられていく。
どれほど悲しくても、みんなが居ない日常が当たり前になりつつあった。

『A、千冬と勉強会しよーぜ』

「A〜龍の家で勉強会しようぜ！！」

カバンを持って無邪気に笑う圭介の姿は、いつしかバレー部のみんなの笑顔で埋め尽くされた。

『んじゃーオレ、Aの後ろな』

「え、俺乗っていいの？」

「いいよ、通り道だし途中まで送る」

私とバイクで2ケツするのは、千冬くんや圭介ではなく、同級生ばかりになった。
テスト前に誰かの家に集まって勉強会をして、その帰りに誰かを送ったりすることが多かった。

『A、これ半分コな！』

「Aちゃん、これ半分あげる」

半分コも圭介達とじゃなくなった。
もう圭介達は居ないんだと、心の中で区切りをつけていた。

「女子の部屋…」

「あんまり見られると恥ずかしいから、やめてね」

冬休み、いつも来てもらってばかりで悪いと、私の部屋で勉強会をすることになった。
部屋に入るや否や、龍くんとノヤくんが顔を赤くして部屋を舐めるように見渡し、なぜか部屋の匂いを嗅いで桃…と天を仰いだ。

「適当に座ってて、お菓子とか持って来るから」

・

Aが部屋を出ると、荷物を置いた田中と西谷が荒い息でAの部屋を物色する。
女子の部屋…と何度も繰り返して部屋の中を動き回る2人を縁下が窘める。
水色のシーツで覆われたベッドがあり、その横には窓。
窓枠にはガチャガチャの動物の置物が飾られていた。
向かい合うようにしてクローゼットがあり、真ん中にはコタツ机が置かれていた。
ベッドの横に置かれた棚には、教科書やポーチが収納されている。

「わ、スライドショーの写真立てだ」

写真が映り変わる瞬間を見た成田がそう言った。
男連中の部屋にデジタルフォトフレームなどなく、新鮮で5人は詰め寄ってデジタルフォトフレームを眺めた。

「これどこの制服だ？」

「東京のじゃない？」

「可愛い！！」

写真に映るAを指さして各々が喋りだす。
A単体の写真はほとんどが東京卍會のメンバーが撮影したもので、笑顔のものが多かった。
それを見て和んでいた5人だが、段々と写真に映るのがAだけではなく、男が増えてきたのに気づく。

「あれ？Aさっきもこの黒髪ロングの人と映ってたよな」

Aが黒髪ロングの男の横を歩く後ろ姿や、バイクに2人で乗ってヘルメットを首からかけている写真が次々と映り変わる。