夜を呑む (ページ33)

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「A、チャン…？」

「バイク…？」

「私がバイク乗るのおかしい？」

「いつからですか！？」

「え…けっこう前からだけど…」

フリーズする龍くんとノヤくんにそう訊くと、なぜか泣きそうな顔で詰め寄られたので少し引きながらも答える。
しかし私の答えが意に反していたようで、そうではなく！と2人は言う。

「いつからのお付き合いですか！？」

「いや付き合ってないよ…私が澤村くんって呼んでるから名前呼びにしてもらっただけだよ」

言質を得るためにですよね？と澤村くんに訊く。
澤村くんは少し間を置いて、ああ、とぎこちなく答えた。

「確かにAちゃんってたまに先輩のことくん付けとかちゃん付けで呼ぶよな」

「黒川くんって言ったときはさすがにビビった…」

「え、あの人のことくん付けで呼んでんの！？」

久志くんと一仁くんの言葉にスガくんが食いつく。
あの先輩をくん付けで呼ぶ後輩なんて居ないだろう、普通なら。
私も東卍みたいな環境に慣れていなかったら、あんな呼び方できない。

「普段は先輩呼びですよ、でもなんて言うか…癖でたまーにそう呼んじゃいますし、心の中ではくんかちゃんですね」

肝座ってんなー、とスガくんが笑う。
優しさもあったが、厳しくもある人だった。
一度目の前でくん付けで呼んでしまった事があるのだが、後輩の前ではやめろよ、と窘められてしまった。

「…ずっと思ってたけど元ヤンだったりする？」

先程まで下を向いていた力くんが顔を上げた、と思うとそう言って爆弾を落とした。
私は固まってしまって言葉に詰まってしまい、龍くん達は、確かにたまに出るもんな、とうんうんと頷いている。

「Aのワル語録」

「わ、わる語録…？」

「なんつーか、喋り方は優しいけどさあ」

「一瞬悪い言葉とか飛び出るよな」

「でもわかる気がする…」

私としては本当に無意識だったのだが、ワル語録とまで言われるような事を言っているのだろうか。
記憶を遡ってみるが、思い出せず頭の中が真っ白になったのでこれ以上の無理はやめておいた。
だって本当に記憶にないし。

「留年のことダブるって言ったりとかな！」

「警察もポリ呼びだもんな」

「え？普通じゃないの？」

「え？」

「え？」

この出来事から、私は初めて自分が今まで抱いてきた常識が、他の人と少し異なることを理解した。
私はまともなつもりだったんだけどな。
言葉遣い、直そうと心に決めた。