夜を呑む (ページ31)

今日:7 hit、昨日:11 hit、合計:199,801 hit

・ページ31

「あ、スガ先輩！こんにちは〜」

「Aさん！こんにちは」

体育館に向かう途中、スガくんとすれ違ったので挨拶をすると、なぜかいつものような爽やかな笑みではなく、含み笑いを見せて彼は足早に去って行った。
更にそれだけではなく、潔子ちゃんにはいつも以上に暖かい目で見守られ、旭くんには不自然に目を逸らされるし、澤村くんまでも目が合うとすぐに目を逸らされる。
…今日の私、もしかして変？

疑問に思いながらもマネージャーの業務をこなす。
体育館の外では潔子ちゃんと恋バナが始まり、ネットを張りながらニヤニヤとするスガくんを見て、澤村くんがため息を吐いていた。
そんな時だった。

「あっ！！」

「あーっ！！」

「あっ！？」

ノヤくんと龍くんが入口を見て叫び、それに釣られて澤村くんが大声を出し、みんなが一斉に入口を見た。
そこに立っていたのは制服姿の力くんだった。
力くんは頭を下げて言った。

「さっ、サボってすみませんでした！練習させて下さい！！」

良かった、と澤村くんが力くんに駆け寄ると、黒川くんが何かを言い、力くんは走って行ってしまった。
黒川くんはもう引退しているが、1年の時に春高に出場していたこともあり、こうして時間がある時に練習に参加してくれる。

「ねえ、さっきなんて言われてたの？」

「力？」

「ううん、澤村くんのほう」

「あー、なんか優しいだけじゃダメだろ、人間関係って」

ノヤくんの答えにふーん、と返す。
最初は強面だと思ってたけどまともなことも言うんだな、と感心した。
確かにそうだ、優しいだけじゃ舐められる。
この人もそういう環境で生きてきたのだろうか。

「ランニングー！！」

「Aちゃん、行こうか」

「あ、はい！」

部員達がランニングを始めたタイミングで、潔子ちゃんの後を追って体育館から出る。
声をかける機会がなかったが、力くん達が戻って来てくれたことが嬉しくて、つい頬が緩んでしまう。
熱い陽射しの中、潔子ちゃんは私を見て良かったね、と微笑んだ。