夜を呑む (ページ26)

今日:3 hit、昨日:11 hit、合計:199,797 hit

・ページ26

はあ、とため息を吐いて枕に顔を埋める。
考え込むことが多くて眠れぬ夜が続き、精神的に限界だった。
少し風に当たろう、と部屋着のショートパンツを脱ぎ捨て、くるぶしまで隠れるスキニーに履き替えた。

「お母さん、ちょっと走ってくる」

「こんな時間に！？何かあったら大変よ」

「大丈夫だよ、バイクに乗って道とか見て来るだけだから」

私が襲われてから随分と過保護になってしまった母は、出かけると言えばどこで誰と何時まで、と具体的な所まで知りたがった。
少し前までなら行ってらっしゃい、と簡単に見送ってくれたのに。

「お父さん、Aが…」

「すぐ帰ってくるんだぞ」

門限は21時、今の時間は21時を過ぎている。
それでも送り出してくれたのは両親の優しさだろう。
家に居ても息が詰まる、私を癒してくれるのはあの日の思い出とゴキのマフラー音だけだった。

私のゴキは圭介のようにカスタムをしていないから、マフラー音も見た目も違う。
圭介との思い出に縋りたい一心で買ってもらったけれど、これはこれで可愛い。

ヘルメットを被ってバイクに跨り、エンジンをかける。
実は免許を取る前にゴキを運転したことが何度かあった。
私もいつか乗れるようになりたい、と言うとオマエはオレの後ろで十分だろ、と圭介に言われた。
それでもいつか圭介を後ろに乗せてあげたいからとダダを捏ねて、1ヶ月に2回ほど圭介は私にバイクの乗り方を伝授してくれた。
圭介を後ろに乗せたこともあった。

烏野を通りすぎて、定期検査で通う病院に着き、そこからUターンをして来た道を戻る。
ここに来てから私は3ヶ月に1度、定期検査を受けていた。
もちろん頭の。
両親が後遺症を心配していたからで、今年何も無ければ来年度からは半年に1度になるそうだ。

もしあの時圭介が…と考えることがある。
圭介が東卍を裏切っていなければ、私が圭介のことちゃんと見ていれば…。
みんなを忘れようとしているのに、どうしても思い出すのは圭介やみんなの笑顔と楽しい思い出ばかりで。
矛盾している、私はみんなに会いたい。
でも会えない、会いに行けない。
両親を裏切りたくない、これ以上悲しませたくない。

「ぐすっ」

途端に涙が視界を覆いはじめ、鼻水が垂れそうになり運転に集中できなくなる。
やばい、事故る。
そう思った私はバイクを止めてエンジンを切り、近くの公園に押して入った。