夜を呑む (ページ20)

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入学式を終え、私は部活勧誘のチラシを渡され続け、あっという間に両手が塞がってしまった。
人が多すぎて気分が悪いなと思いつつ顔をしかめる。
早く抜けようと人と人の隙間を縫っていると、あ、と声が上がった。
誰とも目を合わせず、チラシを落とさぬように下を向いて歩いていた私は顔を上げた。

「あの時の…」

「あ…その節はどうも」

目が合い、私が頭を下げるとその人も同じように頭を下げる。
あの時ボールを渡した人で、完全に教師だと思っていた私は学生服を着た彼を見て生徒だったのか…と驚愕した。
大人っぽい人の後ろから顔を出した灰色の髪の人が、大地の知り合い？と問う。
大地と言うのか、見た目も貫禄があるしあってる気がする。

「いや、この間ちょっとな…」

「怪し〜」

もう1人の男の人も出てきて身内で盛り上がり始めてしまい、どうすればいいかわからず固まってしまう。
気まずくて一言残してその場を離れようとすると、綺麗な黒髪をした女の人が私にチラシを1枚差し出した。
そこには4人？の人間のイラストが描かれており、よく見れば3人の男の人とチラシを渡してきた女の人の特徴を捉えていた。

「よかったらマネージャー…どうですか」

「マネージャー、ですか…」

「見学だけでもいいんで…」

私はそのチラシを受け取り、まじまじと見つめる。
男子バレーボール部と書いてあり、人数もそこまで多くなかったしバレー部が有名だという話は聞いたことがなかったので、楽かもしれない。
チラシから顔を上げると、4人の先輩方は固唾を飲み込むように私を見つめていた。

「おい澤村！可愛いマネージャー居るんだから1人ぐらい俺らに譲れよな！！」

「そうだぞ！！澤村ばっかり！」

「そういうんじゃねえよ！」

苗字は澤村さんか、と納得する。
また別のところから現れた澤村大地さんを囲む人達が私にチラシを差し出してきたが、私はそれを受け取らずに言った。

「バレー部の見学…行きます」

「まじかあぁぁぁ！！！」

「また澤村に負けた！！」

「名前、名前！名前だけでも教えてください！」

野球部のユニフォームを着た人が私に頭を下げた。
しつこいなあ、圭介が居たときはこんな風にならなかったのに。
あーダメだ、私圭介に振られたのにいつまで引きずってるんだろ。
東卍のことも考えないようにしなきゃ、と思い首を横に振る。
野球部の人が振られた…と残念そうに言うが、私は微笑んで名乗った。

「AAです」