夜を呑む (ページ17)

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「公立…」

私の手中にあるのは進路希望調査の用紙だ。
気づけば公立の出願日が迫っており、まだ2ヶ月あるが進路を決めなければならなかった。
この土地に来てまだまだ日は浅く、高校のことなんてわかるはずもなく私は迷っていた。

「Aちゃん決まった？」

「ううん、全然」

「だよね」

こっち来だばっかじゃなにもわがらねぁーよね、とクラスメートは口々に言う。
訛りがあって標準語の私は浮いていたし、よく他クラスから教室を覗かれたり声をかけられたりすることが多かった。
こっちに来てからオープンスクールは行ったが、それでもパッとしなかった。
というよりも、人生がどうでも良くなって自暴自棄になってしまい、受験の事なんて考えようとしても頭に浮かばなかった。

「私と同じ所さ行ぐべよ」

「高校…？」

「そう！」

「迷ってるぐせに」

私に同じ高校に行こうと誘った彼女に話を聞いてみると、「扇南高校」と「烏野高校」と迷っているらしい。
扇南はここから自転車で20分、烏野は電車と駅から学校までの所要時間を加えて1時間弱。
それは都合がいい。
聞けば偏差値も同じらしく、私は既に烏野を取るつもりでいた。
冬休み明けに転入した私と仲良くしてくれる子は多いが、卒業しても会うのは気まずいし、東卍を捨てきれずに居てどうしても気持ちが深入りできない。

「先生、烏野のパンフレットが欲しいです」

さっそく職員室に行き、私は教師から烏野のパンフレットを受け取った。
中学では女子制服はネクタイだったので、烏野の制服のリボンと黒いブレザーを見て惹かれた。
しかも男子は黒の学ラン。
特進コースもあるらしく、将来の夢が決まっていない私にはちょうどいいなと思った。

「Aちゃん烏野行くの？」

「うん、ちょっと見ときたい」

「そうなんだ！」

オープンスクールに行く旨を伝えると、烏野について色々と教えてもらった。
特進でなければ偏差値はそこまで高くないこと、昔は不良が多かったこと。
そして私が今通う中学からは誰も烏野に進学しないこと。
都合が良かった、いっそのこと東卍のみんなを忘れて新しく人生を始めようと思った。
あの日の出来事は完全に私のトラウマになっていて、カウンセリングにお世話になっているし、顔に近づく手が怖い、人とすれ違うのが怖い。
また殴られるのかと、切られるのかと思うと脚が竦む。

私はもう東卍のみんなに会えない、その術も無い。
ならもうみんなを忘れて、平和に生きたい。