◆.好き、を自覚する1秒前 ページ7
「なぁA、」
「!?」
「あ、おい」
誰が声をかけてきたかくらいは分かる。私は、その場からすぐに走って逃げる。今はこの人といたくない……!!
しばらく走り続けて、足を止める。追いかけてくる人は誰もいない。
はぁ、と息をついて、とくとくと速まる心臓に手を当てる。
……どうして、私なんだ。
どうして、轟くんは私に、私に……!
「う、うぅ……」
顔がぼっと赤くなる。
だってだって、こんなことって……!!
なんで、私に……す、す……。
「あー無理!!」
あのときの、轟くんの顔とか、手の温度とか、声とか、全部思い出しそうで、頭を振る。
無理、無理っ!!
恥ずかしすぎる!!
「うあー……」
頭を抱えてうずくまる。
轟くんが嫌いな訳じゃない。苦手意識とかでもない。
ただ、なんで、ってだけ。
だって轟くんだ。
能力も運動神経もピカイチで、それに、クラスで一番かっこいいって、誰かが言ってた。
「なんで、私……」
「……A」
「ぅおっ」
突然名前を呼ばれて肩を叩かれ、変な声が出る。恐る恐る振り返れば、そこにいたのは案の定、
「と、轟くん……」
「悪い……」
轟くんは気まずそうに、何かを堪えるように、肩から手を離した。
私は慌てて立ち上がる。
「えっと……」
「……そんな態度なのは、俺が告白したからだろ」
轟くんは私の肩に置いた手を見つめながら呟く。そして、私を真っ直ぐに見る。
その顔があまりに綺麗で、とくん、と心臓が小さく跳ねた。
「嫌だったんだろ」
「……へ、」
「嫌なら嫌って言って、」
「ちっ、違うよ!」
轟くんの言葉に、ぶんぶんと首を振る。
私がそんなこと言える訳がない。
「違くて、なんで、……なんで私なのかな、って」
「……」
ぎゅ、と拳を握る。
しかしその手は轟くんにそっと取られて、優しく開かれてしまう。
「……優しいところ」
「え、」
「真面目なところ、人を思いやれるところ、人一倍努力しようとするところ」
轟くんから目が離せなくなる。
轟くんは私と目を合わせ、まっすぐに告げる。
「……あと、笑った顔が、可愛いと思った」
「!!」
「そんなこと思ったの、初めてだったんだ」
轟くんが、少し照れたように微笑んだ……気がする。
ほんの少しだけ口角が上がった、あんまり見られない表情。
「なぁ、嫌いじゃないなら、期待しても、いいか」
……期待なんて、する間もない。
私、きっと＿＿＿＿＿。
2019/9/22 硝子屋
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作者名：風を薙ぐ硝子売り x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2019年9月16日 23時
