◇.キミのおかげで ページ10
ラーメン屋から帰る道では切島から手を繋いできた。そして、私の手を引いてゆっくりと歩いてくれる。まだ一緒にいたいという私の気持ちに気付いているのだと思う、たぶん。
｢………｣
少し離れた所から何か声が聞こえてる。とてもか弱い声、何かに怯えているかのような声がする。
｢切島〜。｣
｢ん、どうし、た！？｣
切島が話終える前に強引に切島の手を引っ張って、音の聞こえた方へ急いだ。
＊
か弱い声の主は木に登って降りられなくなった仔猫だった。うん、かわいい…とか言ってる場合じゃない。早く助けてあげないと！
｢待っててね、今助けてあげるから。｣
荷物を下ろして、仔猫のいる木に近づこうとした時、突然腕を掴まれ後ろに引っ張られた。
｢何するの切島。｣
｢A、危ないぞ！｣
｢そんな事言ってる場合じゃない。｣
あんな所に置き去りには出来ない。あの子は1人で怖がってる。早く助けてあげたい。目の前の光景に気持ちが焦る。
｢わかった、俺が行く｣
木の上の仔猫を見ながら切島が言った。正直、嬉しかった！………けど、
｢駄目、切島が登ったら木が折れちゃう。｣
｢……確かに。｣
切島が登る方が危ないので、結構私が登ることにした。
｢A｣
｢何？｣
｢絶対怪我するなよ！｣
｢当たり前。｣
そう言って、私は木を登り始めた。
＊
仔猫を無事に救出し、私は無傷。多分、焦った気持ちのまま登っていたら、どこか怪我をしていたと思う。あの時、切島が止めてくれなかったら、きっと落ちてたな！
だから、
｢…ありがとう。｣
仔猫を抱えたままの状態で、呟いた。きっと聞き取れないだろうと言うくらい小さい声で言ったはずなのに、切島はニカッと笑って
｢おう！｣
と言った。思わず目を見開いてしまう。あの声を聞き取ったの？そんな驚きを隠せなかった。まぁ、どうでもいい事だけどね。
＊
後日、仔猫は私の家で飼うことになった。本当は仔猫の親を探して返してあげるつもりだったのだけれど、どうにも仔猫に気に入られたらしく、離れてくれないので飼うことになった。今では、寝る前の私の話し相手。
………何故か切島は仔猫に嫌われている。可哀想な切島。
＊
2019/9/24 風薙
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作者名：風を薙ぐ硝子売り x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2019年9月16日 23時
