壱 ページ3
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実は彼女、Aさんとはこれが初対面じゃない。
この屋敷に入院して二、三日たった頃の夜に初めて会ったのだ。
あの日も炭治郎はぐっすり寝ていたっけ。
なんとなく眠れなかった俺はぼんやり窓の外を見ていたんだけど、窓際からそっとこちらを覗いてくるAさんと目が合った。
思わず叫びそうになった俺の口を彼女は無理やり押さえて
『驚かせてごめんって!ボクは炭治郎の家族だからっ(小声)』
声をひそめて必死に弁解する姿はなんとも可愛らしい。言わないけど。
思わずときめいてしまったよ。言わないけど。
何故か炭治郎には黙っていて欲しいと念を押さた。
けど、炭治郎 結構疑ってるぞ?完璧には気づいてないけどね。
なんだか抜けた姉弟だなと呆れる俺。
Aさんは、寝息を立てる炭治郎の額を優しく撫でている。
その顔はお姉さんだ。
「機能回復訓練ってそんなに辛いんですか?」
『分かんない。ボクも受けたことないから』
入院したことないからさ。参考にならなくてごめんね。
そう話す彼女の声色は優しくて心地良い音を奏でていた。
心地よ過ぎて眠くなってくる。
『ふふっ、寝ていいよ』
今は、おやすみ。
その言葉を最後に、俺の意識は沈んだ。
善逸side 終
『……善逸くん、寝ちゃったかな』
寝息が三つに増えたことを確認して、ボクは手元に目を落とした。
安らかに眠る弟。
頑張り屋なキミだからきっと上手くやれるよ。信じてる。
でもね……
『無理は、し過ぎないでね』
額にそっと口づけをし静かに傍を離れる。
良い夢を見れるおまじないってやつ。受け売りだけど。
窓際に飛び乗り、ふと振り返る。
『良い夢を』
フワリと窓から降りると足音を立てずにその場を立ち去る。
月明かりの中、花瓶の花が新しい仲間を歓迎するように寄り添っていた。
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