伍 ページ23
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炭治郎side
二年前、俺が山を下りて炭を売っている間に禰豆子以外のみんなが殺されていた。
禰豆子も致命傷に加えて鬼の体になり陽の下に出られなくなってしまった。
──『 いってらっしゃい 』──
控えめに手を振る姉の姿に募る想い。
最初は弟達が禰豆子に甘えたい気持ちと同じだと思っていたっけ。
実際に自分より上がいないから姉さんには甘えることも多かった、うん。
父さんが亡くなってからはみんなを守りたくて……何よりA姉さんを守りたくて、しっかりあろうと甘えないようにと己を律したんだ。
母さんの次に俺の頑張りを見てくれていた人。
優しく包み込んでくれる彼女の存在に俺はいつしか………
この想いを自覚したのは冷たくなった彼女の頬に触れた時。
「……A、姉さん……ねぇッ……さん……」
何度 呼びかけても開かない瞼。動かない口。
裂かれた胸元は固まった血がこびりつき赤黒く染めている。
俺の胸の奥が何かに押し潰されるような息苦しさは涙となって零れても癒されることは無かった。
いつか大きくなって彼女より背が高くなったら今度は俺が頭を撫でたかった。
春になったら花見をして、夏になったら西瓜を食べて、秋になったら落ち葉を集めて焼き芋をして、冬になったらまた一緒に炭を売りに行って寒かったら身を寄せあって……
ッ痛かったよな。
苦しかったよな。
寒かったよな。
俺が、俺がもっと早く帰っていれば……
───ごめん…──
ごめんごめんごめんごめん!!
守りたかった!
一緒にいたかった!
貴女がッ……………好きだったのに……
ッ守れなかった……
埋葬の為に掘った穴にみんなを埋める間中、懺悔の言葉が止まらなかった。
彼女の埋まった場所に縋って泣いた。
そんなことをしても戻ってくるわけないのに……
腫れた瞼が熱い。
「姉さん、みんな 行ってくるよ」
禰豆子を入れた籠を背負って俺はみんなに手を合わせる。
「行こう」
振り向くな。前に進め。
誰に言う訳でもない言葉は己を前へと引っ張った。
さよなら、俺の初恋。
手向けた赤い花の名前を俺は知らない。
なのに、
『大丈夫だよ』
相変わらず彼女の手は暖かかった。
炭治郎side 終
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