第 壱 幕 ページ3
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雪が全ての音を吸い取るように静かに降っている。
一晩だけで膝下くらいまで積もってしまった。
ボクは今朝から家の周りの雪掻きにおわれていた。
「あ、いた。…姉さん！」
『炭治郎』
あまり大きな声を出さないでほしい。屋根の上にあるこんもりとした奴らが雪崩落ちてしまうじゃないか。
険しい顔で見つめていると、炭治郎は口を抑えてゆっくりこちらへ歩んできた。
うん、ちゃんと察したんだね。
忍び足は余計だけど。
えらいえらいと頭を撫でると頬を赤らめ俯かれた。
ボクがこの竈門家に拾われて二年が経ったのに、まだ慣れないのか。
『で、ボクを探していたようだけどどうかした？』
「そうだった！これから村へ炭を売りに行こうと思うんだ」
姉さんも行かない？
確かに二人分の薪を売れれば売り上げも二倍だろう。
だが、
『まだ雪掻きが終わっていないから行けないんだ』
今しておかないと、きっと明日には埋もれてしまうかも……は言い過ぎか。
折角の申し出だが、今回は断ることにした。
「そっか……」
ひどく残念そうな炭治郎の頭に獣の耳が見えた気がする。きっと気のせいだね。
『帰ってきたら一緒にかまくらを作ろう』
中で火を炊いて餅を焼いて、みんなで暖まれるくらいうんと大きいの。
だから、早く帰っておいで。
「うん！分かった！」
笑顔を取り戻した炭治郎は駆け足で 竹雄ー！！と叫んでいった。
だから、声は抑えてってば。
嬉しいとすぐに忠告を忘れるんだから困った弟だよ。
彼の父が亡くなって耳飾りを受け継いでから甘えることが極度に減った。
長男として家族を支えようと身を粉にする姿は見ていて誇らしくあるが、ボクから見たら我慢しているようにも見える。禰豆子もだ。
ボクに出来るのは、炭治郎を手伝うことと竈門家を守ること。
それが、拾ってくれた義父との約束だ。
それ以上に、こんなに暖かい場所を失いたくないという己の願望もあるかもしれないね。
「いってきまーす！」
遠くで、炭治郎がこちらに手を振っているのが見える。小さくて振り返すと振る速度が上がった。あれ、手もげないかな……。
満足したのか。意気揚々と村への道を歩いていく。
少し経って、禰豆子が末弟の六太を背負って歩いてきた。
こちらに気づいて手を振っている。
振り返すと嬉しそうに微笑んでいた。
禰豆子の笑顔は心が暖かくなるね。
彼女らの姿が見えなくなる。
よし、もうひと踏ん張りっと。
腕まくりをして気合いを入れ、雪をかく手を速めた。
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