壱 ページ19
.
『何故、会いに行ってはいけないのですか?』
「だって、Aはこれから任務だから」
それにね、入隊の理由はどうあれ キミはもう鬼殺の一隊員だ。
ならば、規律と命令は守ってもらわないと。
そうだろう?
正論に、挟む言葉が見つからない。
確かにボクは炭治郎達を探す手がかりを求めて鬼殺隊に入った。
だが、いざ手がかりが見つかっても確かめに行けないなんて……
得た物が大きかった分 落胆も大きい。
「その代わり、彼らがここに来たら教えてあげる」
『ありがとう、ございます』
ボクは頭を下げるしか出来なかった。
あれから、胸にモヤモヤを抱えながら任務にあけくれ お館様からの連絡を待つ日々を送った。
『……ふぅ』
また息が漏れる。
雀が二羽じゃれるように飛んでいくのが目の端に写る。
任務が無い日はこうして竹刀を振るうようにしている。
こうしていないと今にも探しに駆け出しそうだからである。
そこへ、
「朝から精が出ますね」
庭から声がかかる。
『千寿郎くん』
この屋敷の主の息子の一人。まだ幼いからか体は小柄で声も高い。
庭をはく箒が大きく見えてしまうほどに。
毛先に向かって赤みを帯びた特徴的な金髪に大きな目。
目尻の下がった眉毛は彼の優しさを表しているかのよう。
「おはようございます、Aさん」
笑う顔は目にする者の心を癒す。
朝から彼に会えて良かったとも思える。
『おはようございます。朝早くから道場をお借りしてすみません』
頭を下げるボクに千寿郎くんは慌てて 良いんですよと気遣ってくれた。
「父が柱を辞めてから門下生は僕と兄だけになりました」
どうぞこれからもお使いください。
出来た弟さんだ。
炭治郎を思い出して思わず頭に手が乗った。
『っ!あ、ごめん!』
慌てて後ずさる。やってしまった。懐かしくてつい……。
怒っただろうか?恐る恐る顔を伺ってみると
箒を抱いてへにゃりと笑っていた。
嬉しそう?
声をかけると、ハッとして恥ずかしそうに目をさまよわせて箒の柄を撫でる。
「兄以外に頭を撫でられたのは久しぶりで、何だか嬉しくて」
またへにゃりと笑った。
怒ってないなら、良かった。
ボクは胸をなでおろし安堵する。
ふと、千寿郎くんが箒以外にも何かを持っていることに気づく。
指摘すると、兄に渡す昼餉の握り飯だという。
ならば困ったことだ。
何故なら、今しがた鴉に呼ばれてお館様の屋敷へ向かったからである。
.
110人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ