弐 ページ4
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─────ありがとうございました!!
『ん?』
何やら聞き覚えのある声が聞こえた気がする。
その声は響き渡るように何度も聞こえた。
まるで、やまびこみたいに。
「誰か来たのかしら?何だかドキドキしちゃう」
湯けむりの向こうで、同じように声が聞こえた恋柱様は楽しそうにそう呟く。
ポチャン──
湯船に体を沈めてみる。
じんわりと体が暖かくなってきた。
ここの温泉は体のあらゆる不調に良く効くらしい。
先程 恋柱様が言っていたように肌にも良いとか。
硫黄のような薬のような香りがして確かに体に良さそう。
長く詰まっていた緊張がほぐれそうなくらいに。
「ねえ、Aちゃん」
温泉を囲うように置かれている岩に座り涼んでいる恋柱様は、空を仰ぎながら穏やかに声をかけてきた。
『なんでしょう?』
「Aちゃんって好きな人いる?」
『なっ!?』
なんてことを聞くんだこの人は!?
彼女の問いかけに浮かんだアイツの姿をボクは頭を振ることでかき消す。
「私、産まれた時から体の作りが人とは違うみたいでね。
赤ちゃんの頃、弟を身篭ったお母さんの手助けをしたくて四貫ある漬物石を持ったのが気づくきっかけだったわ。
筋肉の密度とか食欲とか人より八倍あるんですって。
私みたいな子を
昔 お見合いをした殿方から“君と結婚出来るのは熊か猪か牛くらしでしょう”て言われちゃったの」
まるで君は人間じゃないって言われたみたいだったわ。
そう言って笑う彼女は遠くを見つめ、声にもいつもの元気がなかった。
「この髪の色ね、大好きな桜餅の食べ過ぎてついちゃったの。これもお見合いが破断しちゃう原因のひとつ、みたい。えへへ」
乾いた笑い。どこか自傷地味た物言いは見ていて痛々しい。
だが、今ここで声をかけてはいけない。そんな気がしてボクは開きかけた口を閉じた。
「髪を黒く染めて、食べたいのもぐっと堪えて……いっぱい嘘をついて力も弱い振りをしたわ。
そんな私を家族みんなが心配してくれた」
偽っていたら結婚したい殿方が現れたの。
嬉しかった。
私の努力が報われたんだわって……でも、そう思ったのは最初だけ。
ふと思ったの。
今の私を好いてくれた殿方と結婚したら、私は一生自分を偽って生きていかなきゃいけない。
それは果たして“本当の幸せ”なのかなって。
思わず断っちゃった。
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抹茶って美味しいよね(プロフ) - 最新されるのを待ってます!面白いですし、続きが気になります!頑張ってください!! (2020年5月25日 9時) (レス) id: 8bfe17f4aa (このIDを非表示/違反報告)
桜彩 - 続きが楽しみです!頑張ってください! (2020年5月2日 23時) (レス) id: bb1ea0f399 (このIDを非表示/違反報告)
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