君と、恋の話がしたい。 (ページ49)

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医者になりたい。

そう願ったのは紛れもなくその他の選択肢なんてみえなくなるくらい彼女に必死だったから。

言ってしまえば、彼女の為だ。

馬鹿だったなあ、間違えたなぁとふと思う事があった。
第一、俺が医者になった頃に彼女はもうこの世界にいないかもしれないのにと酷い事を思うこともあった。
それに気づいていたのなら辞めてしまえば随分楽だった。
必死になって勉強しなくて済むし、俺自身がもっと自由に生活できたはずだ。
それでも、あの頃から今日まで、俺は夢と言えるか否かのそれを諦めることはできなかった。

彼女の事が好きだったから。
幾ら隠したつもりでも、その気持ちは勝手に独り歩きしていつだって彼女に何かを求めていた。
これはいけないことだった。
見返りを求めて彼女の側に居るのは違う、いけない、それはわかっていた。

わかっていたけれど。

「好きな人ができた」

神様も、随分と意地悪をするよなあと思った。
それは本当に突然だった。
いつものように周りから見つからないくらい人が居なくなった学校から2人で下校していたあの時。

彼女にそんな様子はなくて、勿論前触れなんてものはなくて。
いや、よく考えればあったのか。

彼奴と彼女が密かに仲良くなっていた事。
朝、教室で毎日二人きりで話し込んで居た事。
偶然見かけた彼女の連絡先の欄にあった彼奴の名前の横には星のマークが付いていた事。

全部、全部。
何か事が起こるのを予想させるようなものばかりだったじゃないか。

俺が彼奴にストーカーだと勝手な断定を突きつけた時、何だか変な感じがした。

だってストーカーは俺の方だ。

彼女が望んでいるかわからないけれど彼女の側で寄り添おうとした。
彼女の事が心配で仕方がなくてそれが度を過ぎることもあった。
彼女に寄り付くありとあらゆる危険から彼女を遠ざけようとした。
男は怖い生き物だと彼女に教え込んだ。

彼女の事なら全部知っていた。
ストーカーまがいともいえず、やっていることはストーカーそのものだった。
彼女が一人で昼飯を食べている事だってそれを彼奴が気色悪く見つめていた事だって。
それだけじゃない。
朝は早く起きて彼女の家に寄ってから彼女がきちんと登校するのを背後から確認していた。
確認ができなくなった日があった。
それ以来、彼女の朝は早くなる。
永瀬廉と会うためにだ。

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