君と、恋の話がしたい。 (ページ47)

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「今日は元気ないね」

そう言われハッとする。
彼女に対し申し訳なくなった。
そんな事を彼女に悟られてはいけない。
俺が彼女の前でこんな顔をしてどうする。

だけどそれが本当の事だったから。
だからなんて返事をすればいいかわからなくなる。

「いいんだよ。私の前で気なんて使わなくって」

いつだってそうだ。
俺は彼女を救ってやりたくて、彼女の力になりたくて側にいるのに。
それなのに助けられているのはいつだって俺の方だ。

「紫耀くんはいつも私の話を聞いてくれるでしょ？
だから、今日は私が話を聞いてあげる」

どこまでも優しい子だった。
だからこの俺のどうしようもない勝手な感情に彼女なら答えをくれる気がした。

紫「....昔、俺の母さんが死んだ時。」

こんな話をした事を今でも悔やんでいる。
ただでさえ、そういう類の話に敏感で傷つきやすい筈のに。
だけど彼女があまりに真摯に話を聞いてくれるから止まらなかった。

紫「俺が、一番最初にそれを見つけた」

「うん」

紫「家に帰ったら、母さんが倒れてて。
どうしようって思って、父さんに電話したんだけどね。」

「うん」

紫「その電話に出なかったんだ、俺の父さん。」

何度も何度もかけたけどそれが一向に通話になることはなかった。
馬鹿だったなぁと俺も今なら思える。
初めから119にダイヤルを合わせさせすれば良かったのに。
だけど、俺にだって思うことがあった。
こんな事を言うのは本当にただの自己防衛なんだろうけど。

紫「母さんが倒れてた時、父さんは他の人の命を救ってた」

俺が医者になる事に前向きになれなかった理由。
別に悪いのは父さんじゃない。わかっている。
だけど。
俺がもし、その立場なら。
一つの命を救ったその瞬間に、一番大切な人を失ったんだとしたら。
間違い無くその事を悔やみ、一生その不遇な想いを背負いながら生きていくはずだ。

けど、父さんにはそれがなかった。
勿論、悲しんではいた。その瞬間は。
だけど母さんが亡くなった１週間後にはあの人はまた医者として病院にいた。

紫「父さんはね、医者としてのスペシャリストだから。怖いんだよね、俺はそこまでの精神力は持ち合わせてないって思っちゃって。」

この間、父さんに言われた事が全てなんだと思う。
俺は医者に向いていない。

「紫耀くんは偉いんだね」

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