君と、恋の話がしたい。 (ページ41)

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それからというもの、やっぱり彼女と俺が再び会うなんて事はなかった。
それもそのはずだ。
俺は休みが明け学校が始まってあの場所に中々行かなくなる。
そしてそもそもの話、彼女はもう退院したのだから。

医者になる事に抵抗がある。
医者という職業が嫌な仕事という訳ではない。
勿論安定はしているし、何より誰でもできる仕事というわけではない。
病院は、人の命を預かる場所だ。

昔、助けられなかった人がいた。
仕方がなかったといえばそうなるのだと思う。
俺はまだ小学生だったから。
別に誰の所為でもないし、それが俺の所為だなんて事もないんだと俺にだってわかっていた。

ただ、もう少し早く学校から帰ってもう少し早く対処ができていれば。
今でもそんな事を偶に考える。
けれど心臓麻痺という突然死をした母親に本音を聞く事なんてもうできないし。

別にその事があったから俺に変化があったとか父親が気を狂わせたとかそんな事もなかった。
だけどその時から。
その時からずっと、得体の知れない大きな何かが俺の身体にのしかかっている。
医者になる事に対して前向きになれずにいる。
自分でもまだそんな事を悩む歳でもない事もわかっているのだけれど、悩まずにはいられなくなった。

学校からの帰り道、彼女が俺にかけてくれた「いいお医者さんになるよ」という言葉を何度も思い出した。
そんなただの美辞麗句なんて何の効力もないはずなのになぜだか力が湧いた。
こんなの身勝手な受け取り方なんだろうけれどそれで不思議な力が湧いたんだからそれでいい。

彼女の事を思った。
今はもう、周りの同級生と同じように不自由なく生活しているのだろうか。
そして考えた。
新学期が始まった彼女は友達と夏休みの思い出話をする際に、何の話をするんだろう。
彼女の夏は、病院生活の夏だったわけだ。

可哀想だと思った。
一度病気にかかった以上、何不自由がなく何て事は決してない筈だ。
きっと体育の授業では人より見学が多くなり、
先生や事情を知った人達は皆、彼女を壊物のように扱うのだろう。
彼女はそんな事望んでいないだろうに。

どうしてかはわからないけれど
彼女に会えなくなると彼女の事が酷く気になった。
そもそも、どういう経緯であの病院にいてどんな病気を患っていたのかもわからないのに。

変に妙な気持ちになる。
人より幸せになってほしいと願った。
今思えば、彼女を何より壊物のように扱っていたのは俺なのかもしれない。

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