君と、恋の話がしたい。 (ページ38)

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本当に無力なんだと思い知った。
自分にできる事なんて何一つない。
彼女が俺にしてくれた全ての事に俺は恩返しの一つできないのだ。

きっと俺達には何もなかったよ。
巡り会えた理由も、ドラマみたいな感動話も。

だけど、どうしても。
たとえ無力でどうしようもなくても。
たった一つ叶えてあげたい願いがある。
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「こんにちは」

彼女と俺が出会ったのは俺が高校1年の頃の夏。彼女はまだ幼い少女だった。
広すぎる、緑に敷き詰められたこの場所にはありとあらゆる人達が外の空気を吸いに来る。

紫「どうかしたの？」

「ううん。貴方、昨日もここにいたでしょう」

俺がこの場所にいる理由はただ一つ。
この病院は俺の親父が経営しているから。
夏休みのこの時期になると、どうも此処に来たくなる。
このだだっ広い緑に囲まれて、ある一点をぼーっと眺めるのが俺の日課だった。

「あ！」

彼女が何かを思いついたように声を上げた。
そしてゆっくり彼女の小さな顔を俺の顔に近づけた。

「平野先生に顔が似てる」

よくもまあ、ずばりと当てられたものだから少し感心した。
彼女の明朗快活な姿にも感心した。
だけど此処にいる以上、きっとそれはただの強がりなんだとも思う。

紫「君は、なんの病気？」

「私？私は病気じゃないよ。
ほら、こんなに元気！」

彼女が腕をぐいぐい思い切り回わす。瞬間、
彼女を呼ぶ大きな声がした。

『こら！成瀬さん！また勝手に外に出て！』

「あっ、先生」

慌てた様子で彼女の元に向かってくる先生。
やっぱり、彼女も何かの病気なのではないか。

『あら、紫耀くんじゃないの。』

この病院の関係者に俺はそこそこ顔が知られている。彼女も言っていたが、俺は父親と顔がよく似ているらしい。

紫「どうもです。」

「紫耀って名前なの？すごい！」

『こら、紫耀くんは年上なんだから。
ごめんなさいね、この子すぐに逃げ出しちゃうの。』

先生は彼女はの肩をさすりながら『まだ入りたて』と教えてくれた。

紫「ねえ、歳はいくつ？」

「14歳」

本当に可愛らしい少女だった。
それなのに未来の約束がされていないなんて随分残酷だと思う。

紫「良くなるといいね病気。」

「だーかーら！病気じゃないって！」

病気ではないと言い張る彼女の頭を撫でてやった。
本当に可哀想だ。
こんなに綺麗な瞳をしているというのに。

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