君と、恋の話がしたい。 (ページ16)

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成瀬が高橋といるところを見た。
新学期早々、ながつがぼんやりそう言った。
決して俺の矢印の方向が成瀬に向いている事に気付いていたからでもなくて、きっとそれはただのクラスメイトたちの内情を語るものとして。

俺は彼女と一カ月会えなかった。
だって彼女は海外に飛び立つって言っていたから。
嘘だけど。

会えないながらに彼女からたまに返ってきたラインに一々喜んで、安心していたのに。

俺はダメで高橋ならいいのか。
あの時は俺の事をヒーローだと言ってくれたのに。

座席から斜め前に見えた女子たちの群れの中に彼女もいた。
何事もなかったように、まあ何事もなかったんだけれど。彼女は笑っていた。

長「ねえ、廉。俺この間怪我したでしょ。
この足怪我した時さ俺が行った病院がね」

夏休み中の部活で怪我をしたながつの足のことなんて申し訳ないけれど今はどうだっていい。
それに大抵こいつの話はどうだっていいものばかりだ。

長「その病院がね、どうやら平野先輩のお父さんが院長をやってるみたいでさ。驚いちゃった。すっげーでけぇの。」

平野というその名前に、無意識のうちに反応していた。ながつの話はどうでもいいけれど、平野の話には少し興味があった。

廉「それ、ほんま？確信があんの？」

長「ホントホント！だって俺、声かけられたんだ」

廉「声をかけられる？おまえがか？」

長「足を診てもらったのは平野先輩のお父さんじゃないんだけどね。病院で彷徨ってたら俺のこのエナメル指差して！」

最後までこのデザインはどうかなぁと思ったサッカー部員全員で揃えられたエナメル。
そこには勿論高校の名前が刻まれている。
俺にとってそれが異様にダサいのだが。

長「息子と同じ学校だって言われたし、
その病院、平野総合病院って名前だし確実！」

確かに、信憑性にかけるわけではない。
けれど此奴がその話をするんだとしたら疑わずにいられない。

廉「平野なんて名前、他にもいるやろ」

長「いや、ホントだって！だってね、顔がすごくにてるんだよ。目がぱっちりしてて超小顔。」

そこまで言うならそうなのであろう。
認めたくはないが。

彼奴が医者の息子だとして。
もし本当にそうだとしたら今の俺にとって絶望的な話だった。

何でも兼ね備えた男でありながら、医者の息子だなんて。
彼女が懐く理由はそこに全てが詰まっているではないか。