君と、恋の話がしたい。 (ページ31)

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海「姉ちゃんがいるんだけど、俺とは大違いでね。何でもできて自慢の姉ちゃんでさ。
だけど俺にはそれがすごくプレッシャーで。」

「怖いんだ」

海「君と同じ種類の怖いなのかわからないんだけど。だけどうん...まあ、比べられるのは仕方ないことだとは思うんだよね、兄弟だし。」

昔からずっと一緒に暮らしてきて、その間、俺達は同じペースで同じように過ごしていた。キッカケとなったのは間違いなくピアノ教室に通い始めた頃だった。俺もピアノを習っていたことがある。すぐに辞めたのだけれど。それまで大抵のことは同じようにこなしていたのにある時姉のピアノの才能がぱっと頭一つ上に出たと思うとそこからは追いつこうにも無理だった。

ピアノを辞めて気づくようになる。
姉はピアノじゃなくたって何をやっても俺より上手くこなす。
ただ呆然と凄いなぁと思っていた。その時は。

海「本当にね凄いんだ、姉ちゃんは。
俺は全然ダメで。両親の期待の一つ応えられなかった。」

いつからかそれが不安になり、焦りになり、タチが悪く姉を憎く思うようになった。
怖い。両親に心配をかけたくない。
何より自分が傷つくのはもう勘弁だ。
本当に、自分は最低だ。

「期待された事があったの？」

海「へ」

だからこうやって彼女を救いたいと思うのはその最低な自分から離脱したいが為なのだろうか。
そのキッカケがちょうどよく用意されていて、ちょうどよく変われるのなら。そんな下劣な心からなのだろうか。
それならやっぱり平野先輩の言う通り、俺はやっぱりただの偽善者なのかもしれない。

「髙橋くんのお父さんとお母さん。
お姉さんと髙橋くんを比べた事があったの？」

海「.....わかんない」

「なーんだ。ぜんぶ髙橋くんの早とちりじゃん」

これまで悩みに悩んでいた事が早とちりという言葉であっさり片付けられた。
早とちり...。

「そんなことないと思うけどなぁ」

そんなこと...ないのか。
それはあまりに楽観的ではないか。
姉がどんどん夢を叶える度、俺はどんどんおちぶれていったんだ。俺をできの悪い子だと思っていたはずだ。

「というかそんなことないよ。
ご両親にとっては、学校で一番の成績を取ってきて帰ってくる息子さんでしょう？そんなのもう自慢の息子さんじゃない」

海「.....やめてよ」

「背負いこみすぎはダメだよ。はいあげる」

彼女の掌に乗っかったキャンディを見る。
言葉にならない感情が浮かび上がった。

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