君と、恋の話がしたい。 (ページ26)

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彼女が言っていた事が本当だったのだとわかったのはあれから一週間と経たない内だった。

ある朝、保健室で2人を見かけた。
彼女が寝ているその側でまるで子供のような小さな手を優しく包み込んで、ただじっと見守っている様子の平野先輩がそこにいた。

紫「何、どうしたん」

海「えっ。や、えっと」

本当に偶然、必要な書類を提出しにきただけなのに彼女がそこにいて、まして体調が悪いのであろう彼女の付き添いを平野先輩がしているなんて思いもしない事だった。

紫「一年？」

海「あ、はい。」

紫「Aと同じクラス」

海「あ、そうですけど....」

紫「高橋くん。」

あの平野先輩と会話をする事にさえ緊張したのに先輩が俺の名前を躊躇いなく呼んだから驚きを隠せない。

紫「知ってるよ。高橋海人くんでしょ」

あからさまに動揺した俺を弄ぶかのように平野先輩は笑う。

海「えと...なんでその、名前知ってるんですか」

紫「Aに関する事は何でも知っておかなきゃいけないから」

海「？」

紫「自分で言ってて気持ち悪いわ、なんか」

急に我に返ったようにそう言う。
そうして眠る彼女の前髪を優しくといていく。

紫「白雪姫みたいだと思わん？」

海「あっ....はい。」

紫「だけどこの子の呪いが解けることはないんだよね。だから白雪姫じゃないなぁ」

海「....はい。」

紫「自分緊張してんの？」

海「はい」

それはそうだろう。
何度もいうが平野先輩なんて誰もが憧れる存在だ。
幾ら他人に興味がなくて人を小馬鹿にして生きている俺だって平野先輩を前にすればこのくらいの動揺をするのかと思った。だけどその動揺を押し退けてそれ以上に聞きたい事があった。

海「呪いってなんですか」

彼女の事。
前々から不思議な奴だなとは思っていた。
そしてこの話に平野先輩が絡んでくるとしたらそれはもっと不思議に思える。

紫「生まれながらに体が弱い」

そうなのか。
それならこの間彼女がお腹を痛そうに道中を歩いていた事もそういうことなのだろう。

紫「それから体重が増えない」

彼女は確かに細い。
食べても太らない体質を望む人はごまんといるだろうにそれを呪い、だなんて。

紫「あと、もう直ぐ死んじゃう」

まるでそれが当たり前かのように平野先輩は言うから、危うく聞き流すところだった。
だけど確かにそう言ったのだ。

海「それって...」

紫「病気だよ。治らない病気」

平野先輩は目の前にいる彼女にまた愛おしそうに笑いかけた。

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