1話 ページ3
あの日、旅仲間の彼と別れてからある程度の年月が立ち始めていた。
彼は、助かったのだろうか?
私が知っていることといえば、彼の倒れていた場所には何もなかったことぐらいだ。
そう、血の痕跡も、彼の遺体も、誰かがいた温もりもなかった。
ぼんやりと歩いていると、隣の馬車に座っているやかましい商人が声を荒らげた。
「おい、女!もっと真面目に仕事をしろ!」
数刻前に襲いかかってきた小さな魔物にすら怯えていた癖してコレだから呆れる。
ちゃんと彼の言う護衛をこなしているのだから、なんら問題はないだろう。
「していますよ。」
だいたい「急ぎだから」とスメールを出発してからほぼずっと徹夜させているのにその台詞はない、体が健康でないと護衛に支障がでるから仮眠を取らせてほしいと何度頼んでも却下され、食事すらもまともにさせてくれないのだ。
最悪な護衛任務に違いない。
私は少なくとも雇い主であるこの商人を敬うことはできなかった。
「生意気な口を叩くんじゃない!これだから女は…っ」
グチグチと何かを言い始めた男を無視して、私は道端に咲いている白い球体の植物を眺める。
目的地に近づくにつれ、ちらほらと現れ始めたモンド特産の植物。
確か、蒲公英だったか。
『僕の国には、蒲公英という植物があるんだ。いつか君にも見てもらいたい。』
昔語ってくれたあの青年の言葉を思い出した。
そういえば、彼は自身の素性を明かすことはなかった。
事情のあった私もだが、互いに見知らぬ相手に素性を伏せておきたかったんだ。仕方ない話だ。
でも、恐らく彼の出身はモンドなのは間違いない。
彼はモンド名産である「お酒」を苦手としていたし、あからさまに「騎士」を嫌っていたが、――逆に関わりがなければあそこまで反発できやしない。
彼が生きているのなら、もしかしたらモンドで元気にやっているかもしれない。
表情の硬い人だったが、その裏腹に愛情深い一面があることも知っていた。
故郷への強い思いがあることもわかる。
数年程度の付き合いだったが、それでもある程度彼を理解できるぐらいの情が芽生えるのには十分な月日だった。
ガタンッ!!
ギシギシと音を鳴らしはじめたボロ馬車に思わず、目的地のモンド城に到着する前に壊れるんじゃないか?と内心呆れた。
「修理しますか?」と一応声をかけるが、商人は「そんな暇はない!!」と息巻いて手綱を両手で上から下に叩いた。
…こんな任務引き受けるんじゃなかった。
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沙稀乃(プロフ) - Dorothyさん» こちらこそ、読んでいただきありがとうございます!!とっっても嬉しいです!!また、ネタが降りてきたら、第二部みたいなのを一気出しをしますので、その時はよろしくお願いします!!(*^^*) (11月26日 12時) (レス) id: 5e2cd7ca09 (このIDを非表示/違反報告)
Dorothy(プロフ) - 推し×ヤンデレ大変誠にありがとうございます、毎秒更新楽しみにしております最高 (11月25日 21時) (レス) @page26 id: 7168971a27 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:沙稀乃 | 作成日時:2023年11月24日 17時