【短編集】何の変哲もない本丸のありふれた小噺 (ページ10)

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☆夏の朝の夢　壱　《石切丸》ページ10

※「夏の夜の怪」の後日談になります。

チチ、と爽やかな鳥の囀りが耳に入る。
何の種類かも分からないが、取り敢えず鳴いていた。
薄ぼんやりと白む空に照らされる視界。
一瞬何が起きたのか、此処は何処なのかということも分からなくなった惚けた頭で見慣れた木の目が見える天井を眺めていたが、次の瞬間には覚醒した意識と共に勢い良く身が起き上がっていた。

「…朝…。」

徐々に寝惚け眼も冴えてきて、己が眠る前の事も手の内に戻ってくる。
そうだ、確か昨日は中々寝付けなくて、それで気を紛らわそうとして散歩に出て…。
そこまで考えて、不意に痛む頭を押さえた。
駄目だ、思い出せない。
まるで二日酔いの様な気分の悪さに苛まれながら、何とか部屋の外に這い出ていくと、ぽすんと何か柔らかな新緑の生地に当たる感触があった。

「おや、主。目が覚めたかい。」

穏やかな口調でひょいと自分を抱き起こしたのは三条の大太刀、石切丸だった。
口振りから察するに、どうやら自分が起きるのを態々待っていたようだったが…。
はて、自分は彼に何か頼んでいただろうか。
彼の腕の中で小さく首を傾げていると、胸中の不可思議を悟ったのか苦笑いを浮かべながら「今日は私が近侍を務める日だからね。早めに行って君と予定の確認が出来たらと思ったのだけれど、やけに深く眠っていたから。起きるまで待っていようと思って。」と訳を口にしてくれた。

成る程、それは悪いことをした。
素直に謝罪を述べようとする前に、石切丸はふわり普段と変わらぬ笑みを見せると「ほら主、先ずは身嗜みを整えないと。もうすぐ短刀達も起きてくるから。」と抱えていた己の身を地におろしてくれる。
何だか、不思議と何をするにも彼を出し抜くことは出来ないように感じてしまって、首を傾げつつ言われるがまま部屋に舞い戻った。

背後に立つ石切丸は、襖が閉じるその時まで、じっと此方を見遣っていた。