【短編集】何の変哲もない本丸のありふれた小噺 (ページ36)

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☆暇の終わりと迎える明日　陸　《平野/今剣/博多/薬研/乱/信濃》ページ36

こうして、私は心構えも新たに短刀達の前に向き合う算段をつけた。
だがいざ彼等の前で説明を行うとなると、どうにも緊張の糸がぴんと張りつめる様な気に苛まれる。
滅入りそうになるのも真実。
だからと言って真っ直ぐ此方に耳を傾けてくれている彼等を裏切る様な真似だけはしたくない。

すんと息を深く吸って、再び視線を平野に向けた。

「折角特別任務が終わった事だ。
この機会に低練度の刀達に実戦経験を積みに向かわせようと思っている。
だが遠征部隊を止める訳にも行かないだろう？
其処で、君たちに遑を与える間、第一部隊を拝借しようと考えた。
ただそれだけだよ。」

期間が終われば、また第一線に戻ってもらうさ。
安心させる様に彼等にそう告げれば揺れていた瞳が少し、穏やかさを帯びた様な気がした。

「じゃ、じゃああるじさまは、ぼくたちがきらいになったとか…そういうことではないのですね。」

目に見えて安心した様子の今剣に、なんの大袈裟だなと言いたくもなるが、彼等もまた主人を持つ道具の付喪神なのだ。
幾人もの主人の手を渡ってきた者が、今こうして私の手元に置かれているだけに過ぎないのだ。
そんな彼等からしてみれば、修行を終えて、主人の為に忠義を果たそうとしている矢先に任を解かれる重みといったらないだろう。

「ああ、君達は私の自慢の刀だよ。」

そう言って、不安そうな彼の頭を軽く撫でてやる。
艶のある白銀が揺れ、嬉しそうに目が細められた。

「あーっ！ずるいよ大将！俺も俺も！」
「そうだよあるじさん！贔屓はんたーい！」

不意に傍から声が飛んだかと思うと、同時に衝撃が脇腹に刺さった。
信濃と乱が突っ込んできたらしい。
軽いとはいえ、勢いのあるそれに軽く目眩を覚えながらも彼等を抱き寄せると、それを見ていた薬研や博多も悪乗りを重ね背に凭れかかってくる。
正直、身体的なキャパが持たない。

「薬研、博多、お前達そういうキャラじゃあないだろうに…！」
「おっと、偏見は良くないぜ大将？俺たちだって短刀だしな。」
「そーばい主人、甘えしゃしぇるんも主人っちしてん大事な役目。
しっかり果たしてもらうちゃ！」

時折覗く彼等の顔から見える悪戯っ子のような表情に、何をいけしゃあしゃあとと歯軋りを漏らす。
だが、こうして楽しげな時間を過ごせるのであれば、多少の身体的負担は買うべきなのかもしれないな。

すっかり周囲を今剣と粟田口に包囲されていたその時、ふと一振りが距離を取っていることに気付いた。