【短編集】何の変哲もない本丸のありふれた小噺 (ページ35)

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☆暇の終わりと迎える明日　伍　《一期一振/三日月宗近》ページ35

二振りの言葉は、自分からしてみれば不可解だ。
簡単…容易い。
果たしてそんな術があるのだろうか。
否、この二振りは同派の刀の事に精通している筈だ。
ならば、己の見立てが正しければ、彼等の言葉に嘘偽りはないと見て良い。

「…どうすれば良いかな。」

ジッと彼等からの二の句を待つ。
すると、朗らかな声がころころとした澄んだ笑いを耳まで運んできた。

「主、弟達に特別何かをする必要はありませんよ。
強いて述べるのであれば、きちんと説明を行えば良いだけです。」
「今剣も同じだろうな。
然るべき説明のみきちんと伝えておけば、特に気に掛けることもないだろう。」

真面目な表情で向かい合おうとしていた私は、思わず間抜けな顔を晒したようだ。
目の前の二振りは堰を切ったようにくすくすと笑い声を零しつつ、「主」と諭すように態勢をを変えた。

「主から見れば、確かに弟達は私たちに比べ幼く見えるやもしれません。
しかし、彼等とて一つの付喪神。
主より何百年も年を重ねている、謂わば先人でしょう。」
「そんなしぶとい『神様』が、たかだか一度任を解かれたからといって弱さを見せるとは考え難いと思わないか。
まして、彼奴らは修行を終えて主の為の刀となって戻ってきた身。
そんな彼等を、他でもない主自身が信じてやれないでどうする。」

話に合わせるように、部屋の灯籠がその炎を揺らめかせた。
彼等の言葉に、何かを挟む余地はなかった。
此処最近、ずっと諭されてばかりのような気もするが、それだけ私が正しく理解を及ばせていられなかったのだと思うと恥ずかしくなる。
もう三年も審神者として生きているのだ、それくらい理解出来ずして上司顔も出来まい。

「主はただ、弟達に真っ直ぐに向き合えばそれで良いのですよ。」
「はっはっは、真っ直ぐなのは大事な事だ。
俺たちも今は人間の身を持っているからか尚分かるが、『等身大』とは良い言葉だと思うぞ。」

「真っ直ぐ…等身大。」

鸚鵡の様に復唱することしか出来ないが、胸の中では何かがストンと行った様な気がする。
矢張り年の功、というやつなのだろうか。
二振りの言葉には、其処らの人間が吐くよリもずっと重く正しさ説く力がある様に思えた。

「…分かったよ。
少なくとも正直に短刀達と向き合うことは心に留めておく。」
「それが良い。
きっと彼奴らも受け入れてくれるだろう。」

最後の最後まで優しく眼差しを向けてくれていた二振りに丁寧に一礼し、私は短刀達に事を告げに向かった。