【短編集】何の変哲もない本丸のありふれた小噺 (ページ34)

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☆暇の終わりと迎える明日　肆　《一期一振/三日月宗近》ページ34

加州と別れた後、私は二振りの刀の部屋を訪れた。
加州同様、急に外に出ていた私に驚いたような様子を見せたものの、「少し相談があって」と声を掛けると直ぐに応じてくれる辺り彼等は本当に面倒見の良い性格らしい。

「はっはっは、主の方から声が掛かるとは珍しいな。」
「して、どのような御用件でありましょう。」

「協力感謝するよ。三日月、一期一振。」

自身の前に行儀よく構える二振りの太刀は、三条派と粟田口派それぞれに顔が効くだろうと考えた己なりの人選だ。
今回相談に来た件に関して適任かどうかはこれから判断していくしかないのだが…そうであることを祈るばかりである。

「実は、久々に阿津賀志山巡りをしようと思っていてね。
未だ実戦経験を積んでいない刀を重点的に回したいと考えているのだけれど。」

「それは何よりだ。
俺たちが戦で舞うのは、刀として生きている実感を得るための術でもあるからな。」

二人の様子を見ながら、加州と話していた提案を伝えてみる。
幸いなことに、二振り共肯定的な表情を浮かべ、三日月に至っては大きく頷く素振りを見せている。
此処までは良い、掴みが上々なのはいつものことだ。

「しかし、その件で何故私達が呼ばれたのでしょう。」

もっともな疑問を口にして首を傾げる一期一振の言葉に、確かにそうだと三日月が頷いた。

「主よ、俺達は何故呼ばれたんだ？」

「阿津賀志山の周回の為に部隊を編成するとしても第二部隊以降の構成は弄ることが出来ない。
周回中も遠征の任を任せなければいけないからね。
そうなると弄る必要があるのは第一部隊だ。
しかし第一部隊の面々は、もう何ヶ月単位で常駐の任についている。
彼等の任をいきなり解いてしまって、不安を与えることにならないか心配なんだ。」

其処まで話して、二振りの太刀は納得したように声を漏らした。

「…つまり、弟達に対してどう接すれば不安を与えずに任務から降りてもらえるか。
その術を尋ねに来たということでよろしいでしょうか。」
「今剣に粟田口派の短刀なら、確かに俺たちが相談としてまず思い浮かぶだろうなあ。」

「そういう事だよ。
何か忠告があれば聞いておきたくてね。」

肯定を言葉にして彼等に返せば、二振りは互いに顔を見合わせ、

「至極簡単ですな。」
「嗚呼、容易いな。」

と此方に視線を戻した。