【短編集】何の変哲もない本丸のありふれた小噺 (ページ32)

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☆暇の終わりと迎える明日　弐　《加州清光》ページ32

時刻は少々戻り、先程の茶室。
突然の審神者の申し出に、加州の顔は驚愕を隠せずに居た。

「あ、阿津賀志山って…あの阿津賀志山！？」

目を白黒させる加州を他所に、私は悠々と湯呑みを手に取り息を吹きかけ頷く。
戦に出たいというのは自分から言いだした事ではあるが、まさか採用されるだなんて思わなかったのだろう。

「ここ最近、政府の方で戦力拡充計画が行われていないこともあって弊本丸の刀の練度は偏り気味だ。
折角加州からもこうして意見が出たわけだし、この機会に中弛み気味の連中を戦に出してやる気を戻してもらおうと思うのだけれど。」

どうだろう。
そう誘いをかける私の顔は、傍目から見れば妙案を考えついた悪戯っ子のように思えたのだろうか。
加州は迷った様子でううん、と唸り込んでしまった。

「…そりゃ、戦に出たいのは本当。
でも、その間遠征を止めることも出来ないよね。
第一部隊の常駐短刀達はどうするんだよ。」

少し悩んだようにして絞り出してきた質問に顎を摩って考える。
確かに遠征任務は休みの間にも行っておかねば、有事の際にえらい目を見るだろう。
となると、加州の言う通り第一部隊を弄るしかない。

第一部隊には常駐している刀が六振り居る。
初めて鍛刀した折に顕現して以降ずっと支えてくれている平野を始めとした短刀達だ。
皆修行を終え、今は我が本丸のエースとして日々戦場に赴いている。
そんな彼等にいきなり暇を与えて大丈夫なのか、と、彼は心配しているらしい。

「…まあ、何とかするしかないね。
そこをどうにかするのは私の仕事だよ。
短刀達のことを想うのも大切だが、それ以上に大切なのは贔屓しないことだ。
この本丸は皆の努力で成り立っているのだからね。
誰もが戦に出て、そして刀としての本懐を果たせるようにする。
そうするべきだと思うんだ。」

浦島との遣り取りを思い出す。
過去は変えられない、だが未来なら選べる。
自らの命を懸けて戦に身を投じる彼等の決意を、これ以上無下にはしたくないのだ。

じっと、祈るようにして紅珠の光を覗き込む。
しんとした茶の間で、数秒の間私と加州は見つめあった。

そして漸く、溜息と共に加州が両手を挙げる事で降参の意を示した。

「わかったわかった。
主が一度言い出したら聞かないの、俺よーく知ってるし。」

昔からそうだもんね。
幼子を見るような暖かい目を向けられれば、照れ臭そうになる気をしっかり抑えて感謝の言葉を述べた。