【短編集】何の変哲もない本丸のありふれた小噺 (ページ30)

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☆ほんの少しの暇　〆　《加州清光》ページ30

「仕事が無くなったってことは、連隊戦の任務も終わったんだ。」

手の内にある急須が鮮やかな緑をことことと湯呑みに移して行く。
俺がやる、と言って聞かなかった所を宥めて勝ち取った急須だ。
尤も私の趣味で中身は渋目の緑茶なので、若い女性のように流行に敏感な加州の趣味に合うかは分からないが。

「嗚呼、昨日の五時の手当てで出陣した所で丁度二十万集まったようでね。
まさかこんなに早く新入りの乱舞度が上がるとは思わなかったけれど。」

湯呑みを差し出しながら返答を返す間にも、加州は何かを考えるようにしている。
自分の分も注ぎ終わった事だしと、急須を一度卓上に置いて腰を下ろし彼の方に向き合った。

「結局、今回の連隊戦には一度も出陣しないままだったな。」

のんびり湯呑みに触れて熱を感じたのか、小さく「あつっ」と声を上げる彼。
しかしその末に加州が零したのは不満の声だった。
…痛い所を突かれた。

「…すまないね、今回も短刀達に全て任せてしまって。」

弊本丸の運営に際して、最近第一線で活躍している刀といえば専ら最初期に修行に出した極短刀達ばかり。
修行という概念が存在しなかった頃合いならいざ知らず、今の彼等は殆ど敵なしといっても過言ではない。
そう言ったこともあって、ついつい、出陣が彼等に偏ってしまう。

「仕方ないのは分かってるんだけどね。
速さであいつらに勝てる訳ないし、俺たちの戦もいざ現場になってみると短期決戦だからさ。
あいつらの独壇場になるのも、分かるんだけど。」

口ではお利口さんな物言いをしているが、矢張り本心では戦場に出たいという気持ちが強いのだろう。
その視線は、じっと湯呑みの中の波形に向けられるばかりだった。

「…そうだね、そうしたら…時間が空いたことだ。
久々に、アレをやるかな。」

ぽつり口にした此方に反応するように、少しだけ視線が戻ってくる。

「アレ…って、何？」

興味があるのだろうか。
ぶっきらぼうを装って尋ねてくる加州に、にたり悪どい顔を見せた。

「そりゃあ、散歩さ。
コースは楽しい阿津賀志山だがね。」

「…兄者、何か良からぬことが起きる気がするぞ。」
「え？そうかなあ。
肘丸の予感はよく当たるからね。
本当に何か起きるかも。」
「兄者、俺は肘丸ではない。膝丸だ。」
「ありゃ、そうかい？
でも楽しくなりそうだよ、良かったね肘丸。」
「直っていないぞ兄者。」

本丸の縁側。
濡れ行く庭を眺めながら、二振りの刀が何かを予知していた。