【短編集】何の変哲もない本丸のありふれた小噺 (ページ29)

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☆ほんの少しの暇　肆　《浦島虎徹/加州清光》ページ29

ただの散歩ということは事実なのだ。
それを何度か噛み砕いて伝え続ければ「はいはい、主の言うことだし信じるよ。」とひらり手を振られてこれ以上の付け足しは不要だと言わんばかりの顔を見せられる。
本当に大丈夫なのだろうか。
心の声が、不思議と浦島と被ったような気がしないでもない。

「要は、暇だからぶらぶらしてたってだけね。
なら俺を呼んでくれれば良かったのに。」

主になら何処へだって付き添ってあげるんだから、と相変わらず最初に彼を呼ばなかったことを根に持っているような返答を返される。
此方は苦笑することしか出来ない。
以降暇が出来たら、先ずは加州に一声かけるべきだろうな。
本件のような状態がいつまでも続いては敵わない。

そんな様子を見かねたのか、浦島が一歩身を進めて口を開いた。

「まーまー、加州さんも落ち着いて。
俺、どっちにしろこれから兄ちゃん達のとこに行く予定だったからさ。
此処からは主さんのこと、加州さんに任せるよ。
な？」

何だか気を遣わせてしまった気がしないでもない申し出だが、事実でもある。
いつまでも浦島を引き留めている訳にもいかない。

「そういう訳だ。
加州さえ良ければ、御相手を引き継いでくれないかい？」

これは相手方にとって思わぬ申し出だったようで、あんなに愚痴垂れていた顔が驚きに染まった。

「え…ほ、ホントに？
本当に俺でいいの？」
「先から俺に任せろと言わんばかりだったのは他でもない君だろうに。」

暫くぽかんとしていた加州だったが、「じゃ、後は宜しくな！加州さん！」と浦島が駆け出すのを見てハッと我に帰ったようだった。

「…まあ、あんたがそう言うなら、いいけど。」

満更でもなさそうな顔を隠すのが下手くそな刀だ。
口にはしないもののそう思わざるを得ない笑顔を浮かべながら、彼は箒を片手に収めてもう片方の手で此方の手を握る。

「掃除は良いのかい？」
「いーのいーの。
俺が主と一緒にいなきゃいけないっていうのは、長谷部で言うところの主命？ってやつだから。
後で安定にも言っとく。」

それはそれで皺寄せが此方に来そうなのだが。
上機嫌な様子の彼を見ると、そう強くも言い出せない。
普段の労いも兼ねて、話を聞くか。
ある種観念に似た感覚を覚えつつ、取り敢えず廊下での立ち話もいけないと言うことで近くにあった茶室へと身を移すことにした。