【短編集】何の変哲もない本丸のありふれた小噺 (ページ28)

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☆ほんの少しの暇　参　《浦島虎徹/加州清光》ページ28

それからは特段真面目な話が出る事もなかった。
なんて事はない、ただの日常の小話が続いていく。
此方から話す事は殆どない。
話さずとも勝手に浦島が話を繋いでくれるからだ。

「もう、そしたら蜂須賀兄ちゃん、『俺を差し置いて贋作を先に修行に出すなんて…。』って暫くずーっと恨み節でさぁ。」
「…よく分からないが、兄弟というのは複雑なものだね。」
「まあ、否定はしないかな！
悪いものじゃないのは確かなんだけどね。」

他愛のない雑談の中からも、見えていなかった刀達の関係性が浮かんで行く。
一つの家族があるように、一つの刀派もまた、繋がり歴史を持っている。
これからはそういった側面にもしっかりと目を向けていくべきなのだろう。

本丸内をぶらぶら当てもなく連れ立って散歩していく。
庭先では向日葵が燦々と降る雨に濡れ下を向いていた。
根腐れしないと良いが。
そんな心配を向け少しぼうっと外に目を向けていると、不意に「主…？」とポツリ、呟くような声が廊下の先から響いた。
床が軋む音と小走りになる足音がそれに続く。

「うわっ、矢っ張り主じゃん！
どうしたのこんな所で…ってか、何で浦島と一緒なの。」
「や、やあ…まあそうおっかない目を向けることもないだろう、加州。」

目に見えて不機嫌そうなすらりとした男は、我が初期刀でもある加州清光だ。
手に箒を持っているところを見るに、掃除の当番にでも当てられていたのだろう。

付き合いが長い分よく分かるが、此奴は何かと焼きもち焼きな性分である。
修行に行ってからというもの、余計その度合いが強くなった気がしないでもないが…。
他の刀と事情も分からず共にいる場面を見るのは、好まないのだろう。

「兎に角、疾しいことは何もないよ。
そこは安心してくれて構わない。」

そっと彼が箒を持っている手に重ねるようにして己の手を置く。
毎日欠かさず手入れしている爪を彩る爪紅は、以前加州に贈って貰った一品だ。
これをきちんと付けている様を見ると、加州の機嫌は幾らかマシになる。
悪用するつもりではないが、其処を逆手にとって今は彼の気分を宥めようとすることに必死だった。

「……ま、別にいいけど。
俺の主に限って、誰かに色目効かせたりなんてする筈ないよな。」

暫く黙って此方の様子と指先をしげしげと眺めていた加州だったが、やがて納得してくれたのか、相変わらず渋い顔ではあるものの一先ず頷きを見せてくれた。
それを見て浦島と共に、漸く生きた心地を実感する。