【短編集】何の変哲もない本丸のありふれた小噺 (ページ26)

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☆ほんの少しの暇　壱　《浦島虎徹》ページ26

ここ数日、熱が篭って渦巻いているような陽気に加えて、庭先には雨粒が彩りを見せていた。

普段は庭で駆けずり回っている短刀や脇差達も、今は屋根の下。
普段以上に本丸の中が賑やかになっているとも言えなくもない。

さて審神者はと言うと、此方も大して変わらない。
熱で身体をやってからと言うものの、刀達も一層「無理には気をつけろ」と釘を刺してくる上、そもそも当人に態々外に出る用がない以上仕方がないことではあるが。

「…暇なんだよなあ…。」

頭の中をちらつくのは、先日から続いていた連隊戦の任務のことだ。
開始から今まで狂ったように夜光貝を集め見事二十万のノルマを達してしまった以上、もう弊本丸が貢を納める必要もない。
これで約一週間程は、休みが訪れる訳だ。

だが普段からこうも馬車馬のように働いていると、却ってこうなってしまった時に何をすれば良いか分からなくなる。
部屋の中で任意の報告書の作成に意識を向け続けるのにもいい加減限界がくると言うものなのだ。

溜息が溢れたのを合図にしたのか、身体からは一気にやる気と言うものが失われた。
筆を卓上に置き、欠伸混じりに立ち上がる。
…偶には、部屋から出て此方から刀との接触を行うのも悪くはないだろう。
円滑な仕事は、円滑なコミュニケーションからである。

報連相の重要さもまた先の連隊戦で学んだことだ。
お灸を据えられた時を思い出して苦笑が顔に浮かびながらも、一先ず部屋を出ることにした。

そうして気怠さも程々、廊下の先へ歩みを進めようとした時だった。
ガラリと急に開いた襖に驚いたのだろう。
丁度部屋の前を通りかかっていた人影が「うわっ！？」と声と共に跳ねた。
唐突な第三者の反応に此方も少々面食らいながらも、一体誰だろうと目を向ける。

「なーんだ、主さんかぁ。
急に出てくるからびっくりしたぞ！」

安堵に伴い胸を撫でる彼は、「な！亀吉も驚いたって。」と肩に乗せている亀に同調を求める。
不思議と亀の方も頷いているような気がした。

「それはすまなかったよ、浦島。
今度からはきちんと気配を確認してから開けないといけないね。」

尤も、刀剣男士である彼らの気配を私のような一般的な能力しか持たない人間が把握できるかは怪しいが…。
満足そうな浦島の姿を見るに、この句は胸の中だけに留めておく方が良いだろう。

「そう言えば主さん、執務室出てどこ行くんだ？」

何か用事だろうか、と此方を見遣る浦島には、一先ずの事情を説明することにした。