【短編集】何の変哲もない本丸のありふれた小噺 (ページ21)

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☆連隊戦と反省会　壱　《博多藤四郎》ページ21

そう言えば、確か何百年も前の今の日本というのは、元号が変わって浮かれ立ち暫くした頃合いだったか。
確か令和とか言っていた気がするな。
ならば、それにあやかって言ってみよう。
審神者は、令和最初の危機を迎えようとしていた。

「主、これどげんゆうこつやか。」

本来自室で居心地の良い空間である筈の執務室は、今や絞首台の備え付けられている地獄のように思える。
私の前に座る我が本丸の財政管理担当、博多藤四郎が訪ねてきたのはつい先程の事だ。
普段の様にニコニコ笑顔を浮かべながら「ちょー話あっけん、よかかいな」なんて訪ねて来られたものだから、特に警戒もせずに招き入れてしまった。
よくよく考えたらおかしいのだ、博多が来るタイミングは普段なら月末の収支報告くらいなのだから。
少し前の己の警戒心のなさを恨みながら、正座を初めて暫くする所為で痺れだした足に目が遠くなった。

博多が出してきたのは、我が本丸の小判の貯蓄量を示す家計簿。
もうこの時点で嫌な予感しかしないのだが、ぴらり一番新しい頁を開かれた時にはもう魂は何処ぞへ飛んで行きたくて仕方なくなっていた。

「これ、連隊戦の始まる前ん明細。32万。
そいで、これ。今日の。30万。」
「…大変申し訳ありません、度外視してました。」

流石にこの額を提示されてしまっては、素直に謝るしかない。
普通に節度を持って使っていれば当然こんなことにはならないのだ。
博多はふんとしながら「なんかゆうこつあっけんか」と此方を見遣ってくる。
素直に「三名槍の練度を上げたくて…。」と吐くと家計簿で頭をぴしゃんと叩かれた。
申し訳ない。

「まるっきし、主人ん猪突猛進しゃには呆れる。」

本当に呆れた様な声で言われると少々へこむが、今回ばかりは仕方がない。
以後気をつける様に、ときつくお灸を据えた後、博多はご立腹の様子で次の出陣先へと赴いて行った。
一人残された自室で、私は漸く解放された安堵感と共に痺れ切った足を摩ることしか出来なかった。