【短編集】何の変哲もない本丸のありふれた小噺 (ページ16)

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☆夏の昼のかたり　肆　《石切丸/太郎太刀/次郎太刀》ページ16

不純な動機を聞いた太郎太刀の眉間の皺が傍目からでも分かる程に深くなる。
それに気付いたのか、次郎太刀は慌てて「けっ、けどアタシは別に何をしたって訳でもないよ！其処で主と一言二言話していただけさ！」と弁解の言葉を挟んだ。

「…仮にそれが事実だったとしても、どうして主が明らかにぼうっとした顔をしているのかということの説明にはならないだろうに。」

微動だにしない太郎太刀の表情筋が、全ての答えを物語っている。
敢えて彼の為に口に出してみれば、「あー」と罰の悪そうな声を上げるこれまた赤い顔。
観念したのか、酒飲みの大太刀は両手を上げて膝を正した。

「…引き摺り込んだ後、驚いた主に事情を説明したのさ。
勿論いい顔はされなかったけれど、普段頑張ってるからって酒を呑むこと自体は止められなかったんだ。
じゃあお言葉に甘えてってことで気を取り直して呑み直そうとした時に、主が中々寝付けないって愚痴ってて、それで…。」

まさか。
太郎太刀の表情が強張ると同時に、自分の表情も硬くなるのを感じた。

「…次郎太刀、貴方…主に酒を飲ませましたね？」

底冷えするような重たい声の果て、蚊の鳴くような「だってぇ…」という声と共に首が縦に振られた。
呆れて物も言えないという表情の太郎太刀に、己の溜息が重なるようだった。

「次郎、主は酒に強くないんだ。
寝酒は彼女にとって天敵、それは君も知っているだろう。」

何か言いたげにしている次郎の口から二の句が出る前に飛んだ太郎太刀の「私と共に何年主の側に居たというのですか…。」という言葉に、次郎太刀の反論の意思は完全に燃え尽きたようだった。

「悪かったよ…でも、お陰様で眠れたみたいだし、其処は良かった事にしてくれないかい？」

申し訳なさそうな彼が視線を移した先にあったのは、穏やかな寝息を立てる我らが主の姿。
今尚人の腕に抱かれているというのに全く起きない所を見ると、眠れなかったというのは事実なのかもしれない。
なんと返せば良いか迷うように太郎太刀に処遇の程を目で迫れば、彼は審神者を抱いたまま小さく息を吐いて次郎太刀に向き合った。