【短編集】何の変哲もない本丸のありふれた小噺 (ページ15)

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☆夏の昼のかたり　参　《石切丸/太郎太刀/次郎太刀》ページ15

それからは上機嫌に鼻歌を歌いながら主の頭を撫でて離そうとしない次郎太刀からどうにか主を引き剥がして、事情を聞くことにした。
無理矢理腕の中に収めていた主を取られた事に子供っぽくいじけていた酔っ払いだったけれど、慕っている兄貴が居る事もあってか割と素直に口を割ってくれたのは幸いだった。

「うぃ～…っく。で、何処から話せばいいんだっけ？」
「少なくとも、この厨房に来た所からは。
その前に主と会って居たと言うのなら話は別だけれどね。」
「んふふ、それなら此処からだねぇ。
本当ならアタシが肴になりそうな話を聞く側だと思うんだけれど…まっ、仕方ないか！」

豪快な笑いを響かせる彼は此方の様子など全く気にせず再び徳利を傾けた。
「次郎」とぴしゃり、太郎太刀がそれを咎める様に一言漏らすと、残念そうに手を止め再び視線を私の方に向ける。

「アタシが厨房に来たのはアンタが来る少し前。
酒が切れてちゃなーんにも出来やしないからね、遠征終わりにそのまま来たのさ。
その時は誰も居なかったよ、灯もついてなかったし。」

飲み放題だと思ったんだけどねぇ、と髪を弄りながら赤ら顔で唇を尖らせる次郎太刀を尻目に、太郎太刀の方を見遣る。
一応、証言が取れているとはいえ、酔っ払いの言葉だ。
本当に信用に値するかは兄弟であり彼といっしょに居た太郎太刀からも話を聞いた上で決めたい。
そう思ったのが通ったのか、或いは最初から想定したのかは知らないが、「私は一度次郎太刀と別れた後、遠征で得た資材を置きに倉の方へ向かいましたから。確認は出来ませんが…次郎の言っている事が正しければ、酒も切れていた筈です。間違いはないでしょう。」と首を縦に振った。

「ツマミも準備して、さぁ飲むか！ってなった時だよ。
誰かが歩いてくる足音が聞こえたから、兄貴が来たのかと思って一回障子の戸を閉めたんだ。
兄貴、なんだかんだで遠征帰りに呑むの反対してるからさ。」

それに関しては反対意見はない。
寧ろ、兄の心配は最もだ。
だが、今回重要なのは其処ではなく、誰かしらの来訪者があったということ。
そしてそれが太郎太刀でないとすれば、恐らく。

「そうしたら部屋の外から主の声で『誰だ？』ってこっちを覗いてくるみたいに訊いてくるもんだからさぁ、びっくりしたよ。
実際に障子戸開いた先に居たのも主。
兄貴に告げ口されるのも嫌だったから、取り敢えずこっちに引っ張り込んだんだ。」